いまいちドラマ『星漢燦爛(せいかんさんらん)~星漢燦爛·月升滄海』寸評

近年すっかり精彩を欠いてしまったWOWOW 中華ドラマ
どんなドラマでもまだ楽しくて仕方がない“恋愛初期状態”の御夫人たちが中国系の配信やVikiに飛びついて視聴し大絶賛する大陸アイドル物を、数ヶ月遅れで放送するという冴えない状況がもう長らく続いている。
中国のその手の若い子向け消費型コンテンツは飽きられるサイクルが非常に速いので、WOWOWでやる頃には今さら感しかないし、まともな日本語字幕を付けて公開することで、それらドラマの本当のクオリティが知れてしまう。


この『星漢燦爛(せいかんさんらん)~星漢燦爛·月升滄海』もまさに“日本正式上陸前 大絶賛ドラマ”。
幸か不幸か、WOWOWは週2話進行で放送するため、大した苦も無く追えてしまう。
イヤな予感が的中したドラマだけれど、せっかく50話以上も観たのだから、何かしら記録に残しておきたくなった。
『星漢燦爛』の難点なら3時間でも語れるけれど、ぐっと抑えて“寸評”として留めておくことに致します。


星漢燦爛·月升滄海

『星漢燦爛(せいかんさんらん)~星漢燦爛·月升滄海』

監督:費振翔(フェイ・ジェンシアン)
原作:關心則亂 <星漢燦爛,幸甚至哉>
脚本:鄒越(ゾウ・ユエ)安以陌(アン・イーモー)
出演:吳磊(ウー・レイ)趙露思(チャオ・ルースー)
全56話


wowowにて2023年6月半ばから12月末にかけ日本初放送


以下、いくつかの項目に分け、『星漢燦爛』を語ります。
私はこのドラマを良いとは思っていないので、『星漢燦爛』ファンは読まないことを推奨。


当ブログからの盗用を見る度にイヤな気持ちになります。きちんとリンクをお願いいたします。)


原作者名は保険にならない

多少大陸ドラマをかじったことのある視聴者にとっては、『星漢燦爛』の原作者が關心則亂であることは食い付きポイントになり得るでしょう。
そう、『星漢燦爛』は、評判の良い『明蘭 才媛の春~知否 知否 應是綠肥紅瘦』と原作者が同じなのだ。

でも、だから…??
傑作と同じ原作者の他の小説をドラマ化すれば新たな傑作が生まれるのなら、そんな簡単なことはない。


星漢燦爛·月升滄海

『明蘭』は、元々現実的な良作を撮ることで知られる正午陽光制作のドラマ。
現代女性が架空の時代にタイムスリップする、いわゆる“穿越モノ”だった原作小説を、正午陽光らしい大人の視聴に堪えられる地に足のついた人間ドラマに改変しているのも勝因の一つ。
こういう事を書くとすぐ「中国では検閲で転生ダメだから~」とやたら検閲を持ち出す人がいるけれど、“できない”ではなく 敢えて“やらない”という選択肢もあるのです。


『星漢燦爛』も、俞采玲という現代女性が古代で程少商に転生する“穿越モノ”
原作で俞采玲が迷い込むのは架空王朝で、ドラマでも時代を明確にはしていないが、様々な部分から東漢(後漢 25年-220年)をベースにしていることが見て取れる。

そういう点では、『明蘭』と同じようにリアリティを帯びさせていると言えるかも知れない。
が、如何せん、そもそも『星漢燦爛』のターゲットは若い子で、内容が浅いんですよね。
これ観ちゃうと、“やらない”ではなく、本来の視聴者層を狙った穿越が“できなかった”ドラマという気さえしてしまう。


また、実家でさえ蔑まれ肩身の狭い女性主人公が、それでも強かに聡明に難局を切り抜けていく、格上御曹司との恋に破れるという前半、自分のことを一途に想ってくれる強い男性に嫁ぎ婚家に入る(『星漢燦爛』では結婚という形ではないが)、実は男性主人公も身内と確執が有り復讐の機を狙っているという後半、…このような前後半の基本的な展開は、『明蘭』と『星漢燦爛』で非常によく似ている


それゆえ良作『明蘭』との比較で余計にアラが目立ってしまった結果…

『星漢燦爛』は “廉価版『明蘭』” “お子ちゃま版『明蘭』”

…という印象も否めず。


参考作品:『明蘭 才媛の春~知否 知否 應是綠肥紅瘦』





脚本が幼稚&雑

本来このドラマは27話の『星漢燦爛』と29話の『月升滄海』の2部構成
それを通しで全56話の一本ドラマとしている。
全体を一言で分類するなら“アイドル史劇”“ラブ史劇”で充分だが、前後半で物語の主軸は異なる。


星漢燦爛·月升滄海

 前半『星漢燦爛』戦乱の世ゆえ幼い頃から両親と離れ、親族の中で蔑まれても逞しく生きてきた少女 程少商の成長と、彼女を見初める若き無敵の将軍 凌不疑との紆余曲折のラヴストーリーが軸。


星漢燦爛·月升滄海

 後半『月升滄海』実は子供の頃に一家を惨殺した者の息子となりずっと敵討ちの機会を狙っていた凌不疑の復讐劇が軸。



女性主人公 程少商は、なんとまだ15歳という設定。
あちらでは“留守児童”とも言われているし…。


星漢燦爛·月升滄海

そんな程少商がメソメソした女の子ではなく、困難な状況でも上手く立ち回ったり、自分を蔑む者たちをガツンとやり込める姿が、彼女と同年代の中国人視聴者の目には、現代的でかっこいい女の子に映るのでしょうが、私くらいの年になると、実際にもっと百戦錬磨のツワモノを知っているので、あれ程度では共感も感激も湧かない。


星漢燦爛·月升滄海

程少商と周囲の女の子たちのいざこざは、手に汗握る頭脳戦からは程遠い
中学生のイジメみたいな愚かで単純なものだから、一回ならともかく、繰り返されると退屈でゲンナリ。



星漢燦爛·月升滄海

全編通して軸となるラヴストーリーもブレブレ
当初、男性主人公 凌不疑は「自分の妻になる女性は一目で分かる」と断言し、その言葉通り程少商を見初め、娶る気まんまんで、どんな状況でも彼女を信じて守る、御伽噺の“白馬の王子様”のような完璧な男性。


星漢燦爛·月升滄海

ところが、ドラマ後半になると、優先順位で程少商より復讐が遥かに上回る。
程少商を好きになってしまったのは仕方がないし、そんな彼女を自分の復讐に巻き込みたくなくて遠避けようとするのも一見愛するがゆえの思い遣りのようだが、そもそも復讐心は昨日今日芽生えたものではない。
積年の御ツラミなのだから、だったら最初から「そなたと成婚」なんてホザイているんじゃないわよ、バァーカ!って呆れましたね。
27話も使ったドラマ前半の脚本は一体なんの前ぶりだったのでしょう…??!


水増しドラマ

それ程度のドラマに全56話…。
最初の2話を観た時点で、私はすでにイヤな予感がしていた。
その2話はつまらなくはないけれど、観終えた時によくよく考えたら、40分程度に収まる内容にわざわざ2話を費やしていると感じたのだ。

実際、観進めるほどに、グダグダと非常に冗長に感じた。
全35話にまとめていたら、まだ観られるドラマになっていたかも知れない。
この『星漢燦爛』は、水増し感が否めない。


水増しの効果は、ゆっくりペースで放送するWOWOWOだと、現地中国とはたま違う意味で発揮する。
WOWOWの週2話進行の放送に合わせ『星漢燦爛』を最初から最後までまともに観てしまうと7ヶ月分の利用料 18000円近く払うことになる。
これ程度のドラマに…。
スポーツ、映画、演劇など他の目的で契約した“ついで”ならともかく、お目当てが中華ドラマだけなら、WOWOWはその価格に見合った物をほとんど扱えておらず、コスパが悪いと言わざるを得ない。
(昨今WOWOWが扱う程度のアイドル物なら、すぐに他に降りて来ることくらい、誰でも気付くし。)


全体的にじわじわ水増しされている冗長なドラマ『星漢燦爛』で、特に酷いのが終盤

最後の5話は ただの延命措置

1話でも増やして一円でも(いや、一人民元でも)儲けようとしたのか、蛇足としか思えないラスト5話
主人公の程少商は、敵対関係にあった女の子を許し、信じたばかりに、騙され、殺されかける。
…しかも、2人から似た手口で立て続けに二度も騙される。
しっかり者で頭がキレるというイメージを全面的に押し出していた程少商だが、ドラマ終盤に来て、“学習しない愚か者”とキャラ設定崩壊。


凌不疑も火の海となる密室に閉じ込められるという絶体絶命の苦境に!
が、どうせ絶体に絶命しないでしょ、と予想していると…

星漢燦爛·月升滄海

案の定、存命。
しかも、燃え盛る密室とは全然関係ないまさかの方角の扉からシレーッと再登場。
まるでイリュージョン or “引田天功 大脱出シリーズ:油地獄水面大炎上”


キャスト:主演俳優

星漢燦爛·月升滄海

趙露思(チャオ・ルースー):程少商

程始と蕭元漪の末娘
幼名:嫋嫋

趙露思は1998年 四川省成都出身、高校卒業後、台湾彰化にある私立大学 明道大學に進学しファッションデザインを専攻。
…とそこまでは事実らしいが、その後の事となると、1年在籍した後アメリカに留学、いや仕事をしながらちゃんと卒業したなど情報がまちまちなので、ここでの断言は避けておく。
とにかく十代の内にラブ史劇『鳳囚凰 陰謀と裏切りの後宮~鳳囚凰』でデビューを果たしているのだから、学歴に関してはあまり突っ込んで尋ねてはいけない“趙露思のグレーゾーン”かも知れません。


星漢燦爛·月升滄海

吳磊(ウー・レイ) :凌不疑

無敵の若き将軍、凌益の息子で文帝の義子
字:子晟 / 本名:霍無傷

吳磊は1999年 上海生まれ、四川省成都育ち。
子役出身ですでに随分なキャリア。
こちらの学歴は明確で、2018年 その年全国1位の成績で入学した北京電影學院をすでに卒業。



一応 趙露思&吳磊W主演ドラマなのでしょうけれど、真の主人公は女性の方という印象を受けた。

美男美女が持て囃される大陸芸能界において、親しみ易さで引っ張りだこだった譚松韻(タン・ソンユン)が、さすがにアラサーで学生役はキツイとなった頃、“2代目おへちゃ”的に売れ始めた趙露思(チャオ・ルースー)
ファンの大半は、趙露思のことを可愛くて面白いお姉さんだと思っているティーンの女の子なのであろう。
だから、趙露思出演作はほとんどが子供向け
しかも、短期間に出まくったので、はっきり言って、すでにお腹いっぱい。


私、趙露思を見る度に、自然と若い頃の吉高由里子を重ねちゃうんですよ。
見た目が似ているという意味ではなく、

演技、舌足らずな口調、芸能界での立ち位置、そして微かに香り立つヤンキー味…

それら諸々が若い頃の吉高由里子を彷彿。
(吉高由里子様自身が元ヤンだとは思っておりません。誤解なきよう。)

それに、現代劇、時代劇、お嬢様、スレた女子…、何をやっても演技が似て見えてしまう。
『星漢燦爛』の程少商役でも、趙露思の新たな一面は発見できず、“毎度の趙露思”
いっそさっさと40代になって厚かましいオバちゃんでも上手く演じてくれたら好きになるかも知れないが、現時点では私の興味の対象外。


もう一人の主演俳優は、吳磊(ウー・レイ)
子役出身で演技力に定評があり、スキャンダルも無く、清潔感あふれる優等生的イメージの吳磊は、このまましくじらなければ、40代50代できっと“実力派のイケオジ”と呼ばれるようになっているのでしょう。
なので、若い内にしかできない『星漢燦爛』のようなアイドル史劇もやりたければやれば良いとは思うけれど、近年の中国はアイドルの淘汰が激しくなっているので、もうそろそろこの路線からは抜けるべきかと。

星漢燦爛·月升滄海

『星漢燦爛』の凌不疑も、肌見せ、お姫様抱っこ、少商がほっぺにチュッ♡といったローティーン女子なら胸キュン要素もたっぷりなんですよねぇ。
私は冷めた目で傍観してしまったわ…。
(とっくの昔にティーンじゃない私がそれらをキャッキャッと喜んだら、相当気持ち悪いと思いますよ。)


キャスト:脇を固めるキャスト

星漢燦爛·月升滄海

許娣(シュー・ディー):程老太太 董氏

程始の母、程少商の祖母


星漢燦爛·月升滄海

郭濤(グオ・タオ):程始

程詠、程頌、程少宮、程少商の父


星漢燦爛·月升滄海

曾黎(ズン・リー):蕭元漪

程詠、程頌、程少宮、程少商の母


女性主人公 程少商のお身内は、ベテラン俳優たちで固められている。
祖母役の許娣(シュー・ディー)は、私はこれまで現代劇でばかり見ていたので、時代劇のおばあさん(しかも、息子が軍功を立て大出世した成り上がり一家の洗練された立ち居振る舞いを知らないおばあさん)はちょっと新鮮でありました。





星漢燦爛·月升滄海

徐嬌(シュー・ジャオ):程姎

程少商の従姉で、親族の中では数少ない少商の理解者。


『星漢燦爛』には、懐かしの徐嬌も出演しております。

星漢燦爛·月升滄海

映画『ミラクル7号』(2008年)で周星馳(チャウ・シンチー)の“息子”だった徐嬌。


星漢燦爛·月升滄海

主演の吳磊とは、子供時代から面識あり。
二人とも小さくて可愛らしい。

徐嬌って一体今いくつなのかと調べたら、1999年生まれの吳磊、1998年生まれの趙露思より年上の1997年生まれだったのですね。
結構長いことアメリカの学校に通っていたから、子供時代に周星馳映画で華々しくデビューした割りにその後の出演作はあまり多くはない。
もう学校も卒業したから、これからどんどん出て来るのかも知れませんね。

なお、日本での表記はずっと“シュー・チャオ”であったが、『星漢燦爛』では“シュー・ジャオ”に。
(…と思ったら、チャンネル銀河では“シュー・チャオ”になっている。)
私は、今後は“シュー・ジャオ”の方を使おうかと思う。



唯一の称賛ポイント:崖落ちに新解釈

そんな『星漢燦爛』にも、一つだけ新鮮に感じられる部分があった。


星漢燦爛·月升滄海

それは、崖落ちである。


星漢燦爛·月升滄海

具体的には、断崖絶壁に追い詰められた時、程少商を助けて生かすため、凌不疑が自ら犠牲となることを選び 一人崖から遥か下方に身投げし消えていくシーン

その時点で第49話。
「あと7話も残し、主人公が死ぬわけないじゃん…」と、ほとんどの視聴者はハラハラすることなくそのシーンを見過ごすはず。


実際、凌不疑は崖から落ちても死なないのだが、『星漢燦爛』の新しいところは…

ドラマの中の人物たちまでもが “崖落ちしてもどうせ死なない”と認識していること!

これは意外性あり。
愛する凌不疑が崖の奥底に消えても程少商の悲愴感は薄いし、報告を聞いた皇帝も凌不疑が死んだとは微塵も思っていない様子で、「早く探して救って来い!」と配下に命じる。
(…あれほどの高所から落ちたのに。)

これ、新感覚ですね。
だからと言って、その後再び“死なない崖落ちシーン”を挿入したのは安直でシツコかった。


日本語字幕にも「・・・。」

時代劇なら人名は漢字表記というのが、近年ようやく根付いてきた。
『星漢燦爛』も時代劇なので、その点は問題無し。

但し、その漢字名に付いているのが、中国語発音に準じた片仮名ルビ…。
『陳情令』でウケて以降じわじわ増えつつあるけれど、私はこれに大・反・対。


まず最初に申しておきますと、私にとってのベストは、ルビ無しONLY漢字表記
中国映画週間の日本語字幕でルビ無しONLY漢字表記の快適さに気付いてしまってからは、もうこれ一択。

ただ、その方式がドラマの一般視聴者に受け入れられるかは、現時点ではまだ難しいのかも知れない。
なので、どうしてもルビを付けたいのなら、最低限きらきらファンタジー以外の時代劇では、日本語の音読みに準じた平仮名ルビにして欲しい。
片仮名ルビだと時代の趣きを薄れさせてしまうという“雰囲気”の問題がまず有るが、それ以上に、もっと現実的な合理性の問題もある。


片仮名ルビはとにかく文字数が多い上、チェン、チュン、チョン、ション、シェン等々似たり寄ったりで紛らわしいだけ。
邪魔な片仮名ルビは読まなければ良いのだが、人は知らず知らずの内に画面内にある文字を全て読もうとしてしまうものなのです。
つまり、片仮名ルビは字幕内の制限文字数を実質大幅に上回らせており、ただただ邪魔でしかない


また、『星漢燦爛』も他の時代劇と同様で、例えば呂雉(紀元前241?-紀元前180)のような歴史上実在した人物には“りょち”と日本語発音に準じた平仮名ルビを振っている。
実在の人物と架空の人物をルビの種類で分けると、視聴者に余計な先入観を与えてしまうので、やるべきではない。

それに、一般にはほとんど知られていないけれど実は実在した人物とか、名前は微妙に変えているけれど実質実在の人物というキャラもドラマにはよく登場する。
実在か架空かの線引きは困難だし、それらを全て翻訳者が調べるとなると、膨大な仕事量になってしまいますよ。

ちなみに、『星漢燦爛』の男性主人公 凌不疑も、実在の霍去病(紀元前140-紀元前117)や衛不疑(?-?)の要素を取り入れた人物と言われている。


最近は、日本語発音平仮名ルビだと「耳から入って来る音と違って違和感~」などと言う視聴者がいる。
が、そもそも、耳から入った音を本当に認識できているのならば、ルビは不要なはずですが。

日本語発音に準じた平仮名ルビの場合、日本人は瞬時に漢字とリンクさせ覚え易いのに対し、中国語発音の片仮名ルビは日本人には馴染みの無い音の膨大な羅列にしかなっていない。
『三国志』や『キングダム』の登場人物を全員中国語発音の片仮名ルビに書き換えて「耳から入って来る音と違って違和感」と言っている人たちに見せ、何人の人名を正確な発音で覚えられるのかテストしたい。
(が、たとえ一生懸命覚えたところで、片仮名で覚えた発音ではどうせ中国人には通じない。)


毎度のことですが、翻訳者様個人を批判するつもりなど毛頭ございません。
それどころか、分かり易い日本語字幕には毎度感謝の気持ちです。
ここに記したのは『星漢燦爛』に限らず昨今増えてきた時代劇における中国語発音片仮名ルビへの私個人の見解です。



監督:費振翔

星漢燦爛·月升滄海

結局のところ、私にとって『星漢燦爛』一番の驚きは、監督が費振翔(フェイ・ジェンシアン)ということかも知れない。


星漢燦爛·月升滄海

費振翔と言えば、陳凱歌(チェン・カイコー)監督のあの名作『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993年)の小石頭ですよ。
成長すると段小樓=張豐毅(チャン・フォンイー)になる小石頭、程蝶衣=張國榮(レスリー・チャン)から愛されるあの小石頭。

私が気にしていなかっただけで、もう十年以上前に裏方さんに転身していたのですね。
『星漢燦爛』は初めて撮った時代劇なのですって。
『星漢燦爛』に全くハマラなかった私が言っても説得力ありませんが、初時代劇監督でこれだけ撮れれば立派なものですよ。
今後益々のご活躍をお祈り申し上げます!


映画『さらば、わが愛/覇王別姫』

若き日の“俳優” 費振翔監督を見ることができる名作映画については以下のリンクから。




まとめ:WOWOW、あゝWOWOW…

WOWOW:愛情而已

WOWOWが扱う同じ吳磊主演作なら、前評判ばかり高かった『星漢燦爛』より、『愛なんて、ただそれだけのこと~愛情而已』 の方が偶像劇として良質で、ずっとマシだと感じている。
(あくまでも“偶像劇として良質”。高額利用料を徴収する局がわざわざ扱うべきかは別問題。)


WOWOW:蓮花樓

ところが、同じく前評判の高い『蓮花楼(れんかろう)~蓮花樓』を試しに観たら、かつてのツイン配給 徐克(ツイ・ハーク)監督トンデモ香港映画を思わせるチープな質感で、『星漢燦爛』がマシに思えてきた…。
少なくとも、映像クオリティは『星漢燦爛』の方がずーっと格上。
(『蓮花樓』は東京MXで深夜に無料放送をしたら食い付く人がいそう。“本格派”と錯覚させるような宣伝は、視聴者のハードルを上げてしまうだけだから、やめた方がいい。)


他国と比べ日本は、若年層向きのアイドルコンテンツに夢中になる中高年が多いという特殊な国なので、それをビジネスとして無視できない事情はよく分かるけれど、なにごとも“ほどほど”が肝心。
WOWOWは『陳情令』『山河令』で取り込んだ視聴者を手放したくないのだろうけれど、そこに固執するあまり、取り扱い作品のクオリティを下げ過ぎ。
『陳情令』や『山河令』を入り口に中華ドラマを観始めたとしても、早い人ならすでに夢から覚め、中国の消費型アイドルコンテンツがどれもドングリの背比べであることに気付いていますよ。


WOWOW:三體 +漫長的季節

2023年は後半に、『三体~三體 Three-Body』『ロング・シーズン 長く遠い殺人~漫長的季節』を扱い、ようやく持ち直したかけたWOWOWなのに、そこで終わってしまい、本当に残念。


WOWOW:顯微鏡下的大明之絲絹案

えっ『天地に問う Under the Microscope~顯微鏡下的大明之絲絹案』は?という反論もあるかも知れない。
確かに『顯微鏡下的大明』は、映像、俳優陣、ストーリー、どこも悪くなく、むしろ上質。
なのに、何だか分からないけれど物足りなくて、自分でもびっくりするほど引き込まれないドラマであった。
原作が馬伯庸(ば・はくよう/マー・ボーヨン)、しかも全14話とコンパクトで観易いのに、現地中国でもその条件に見合った話題にならなかったのは、やはり私と同じように“何か分からないけれど決定打に欠く”という釈然としない思いに苛まれるドラマだからという気がする。
(馬伯庸も、成功した映像化作品が非常に少ない人気作家の一人。)

敢えて言うなら、主人公のキャラが弱すぎ魅力に欠くのは、ドラマとして致命的かも知れません。
『顯微鏡下的大明』の見所は終盤のベテラン俳優陣による舌戦くらいであった。
(あとこれも、明代の話なのに人名に片仮名ルビで見づらい&雰囲気台無し。)
日本初放送がチャンネル銀河なら褒めたかも知れないけれど、WOWOWなら“いまいちドラマ”。


アイドルと時代劇に固執すると良作を扱えないと一番分かっているのは陸さんなのでは?
2024年下半期で持ち直せるよう頑張って下さいませ。


映画『成功したオタク』

成功したオタク 성덕

【2021年/韓国/85min.】


大好きなアイドルに性加害事件が発覚し、まさかの逮捕…。
7年間 熱心に応援し、服装を真似たり、イベントにも参加。
彼に存在を認知される“成功したオタク”にまでなったのに、今ではそれも黒歴史。
困惑する吳世妍(オ・セヨン)はカメラを持ち、自分と同じ経験をしたファンたちからの様々な意見や想いに耳を傾ける…。




東京では渋谷 シアターイメージフォーラムの単館公開、しかも同映画館に2つある内の小さなスクリーンを使用ということもあるけれど、ほぼ満席であった。
この地味な作品がまさかそんなに混むとは思わないから、私は出遅れて、希望の席を取れず。
スクリーンが目の前に迫る最前列を避けられたのが、せめてもの救い。

…だったのだけれど、その後、大きな方のスクリーンに変更になった上、2024年4月5日(金曜)からシネマート新宿でも拡大上映。
派手な宣伝をせずとも、人気が広がっている様子。


概要

原題『성덕~FANATIC』


韓国の吳世妍(オ・セヨン)長編監督デビュー作。


成功したオタク 성덕

오세연 Oh Seyeon


吳世妍(オ・セヨン)は、1999年 韓国釜山出身の監督さん。
2018年 韓国芸術総合学校 한국예술종합학교の映画科に進学。
その後、休学したり復学したりしているようだが、情報があまりにも少ないため、卒業しているかは不明。


本作品は、KOFIC 韓国映画振興委員会(영화진흥위원회)の支援を受け、2019年7月から2021年8月に撮影を行った長編監督デビュー作
自身で設立した映画制作会社 해랑사 Haerangsa の第1弾作品でもあるらしい。


仕上がった作品は、2021年 第26回 釜山国際映画祭のドキュメンタリー コンペティション部門に出品。

日本の配給会社も釜山で観て買い付けたのだろうか。
これ、現地韓国では一般にはほとんど知られていない作品のように見受けるのですが。
世界で一番この手の題材への関心が高い国は日本という気がしております。



タイトル

成功したオタク 성덕


原題『성덕(ソンドク)』とは、“성공한(成功した)”+“덕후(オタク/ファン)”の略語とのこと。


日本でも、韓国人俳優やK-Popアイドルのファンの間では、普通に使われている韓国語なのでしょうか。
中華圏でも韓国好きな人々の間では使われているようで、意味は“成功的粉絲(成功したファン)”、“成功的御宅族(成功したオタク)”と説明されている。
(元の韓国語の単語が同じなのだから当たり前だけれど)日本語でも中国語でも同じ説明。


私は初めて聞いた言葉だが、邦題の『成功したオタク』は、原題の直訳だったのですね。


物語

本作品は、7年間大好きだったK-Popスタアが性犯罪を犯し“犯罪者のファン”になってしまったことに困惑する吳世妍(オ・セヨン)が、自分と同じような経験をした者たちを取材しながら、誰かのファンであることの意味や、心の持ちよう等を見詰めるドキュメンタリー作品



“成功したオタク”と聞いても、どういう状態が成功なのか、私は映画を観るまで分かっていなかった。
“何かを極めた結果、それが商売になって財を成したオタク”みたいな人を漠然と想像していたが違った。

実際には、対象となるアイドルから存在を覚えてもらえ、認知されたファンこそが“成功したオタク”。
同じファン同士の間でも有名な上級のファンと言えよう。


成功したオタク 성덕

実は吳世妍(オ・セヨン)監督自身が“成功したオタク”
ファン歴は2013年に始まり、覚えてもらいたい一心でイベントには韓服を着ていくなど目立つ工夫をして参加。
その甲斐あって認知され、テレビ出演も果たし、ファンの間でもちょっとした有名人に。


ところが、2019年、そのアイドルが性犯罪で逮捕
吳世妍監督の7年に及んだ推し活は幕を閉じ、“犯罪者のファン”、“失敗したオタク”となってしまい、少なからず困惑。


成功したオタク 성덕

そこで、吳世妍監督は、同じファン仲間や、同じような経験をしたファンたち(幸か不幸か、同様の事件を起こしたアイドル多数)を取材し、その模様を収めたのが本ドキュメンターである。



監督の推し

ちなみに、吳世妍監督が7年間追い続けたアイドルは鄭俊英(チョン・ジュニョン)


成功したオタク 성덕

정준영 Jung Joon-young


鄭俊英は1989年 ソウル出身。
父親の仕事の都合で幼少期から海外各国で暮らし、19歳の時、ミュージシャンを目指し韓国へ帰国。
2010年、デビューアルバムをリリース。

2019年3月、複数の女性と強引に性的関係をもった上、それを撮影した動画をカカオトークのグループチャットで共有した容疑で逮捕。
一審の判決で控訴を求め、二審で懲役5年の刑に。


実は逮捕されるずっと前の2016年にすでに性犯罪の疑いがあり、朴(パク)という女性記者がそれを報じたところ、鄭俊英のファンたちが彼女を罵倒したという。
映画『成功したオタク』では、吳世妍監督はその朴記者とも面会し、当時のファンたちの態度を謝罪している。


他者の推し

映画には、吳世妍監督監督のママも登場。
ママはかつて俳優 趙敏基(チョ・ミンギ)のファン。


成功したオタク 성덕

조민기 Jo Min-ki

趙敏基は2018年 わいせつ行為の容疑で不名誉にも脚光を浴びると、間も無くして自殺。
血は争えず性犯罪者のファンになったと冗談ぽく話す吳世妍監督親子。
趙敏基は自殺したからなお悪い、生きて罪を償うべきだったとママは言う。



また、吳世妍監督の友人の一人は、生きている人は何をしでかすか分からないからもう信じることができない、安心して信じられ好きになれるのはすでに故人だと言い、推しに丁若鏞(チョン・ヤギョン)の名を挙げる。

成功したオタク 성덕

정약용 丁若鏞(1762-1836)

丁若鏞という名にピンと来ない吳世妍監督に、その友人は「李氏朝鮮時代の実学者」と説明。

ご友人、そこまで行っちゃうんですねー。







誰かの熱狂的なファンになることや、その対象がしくじった際の“推し活の行く末”を客観的に考察したり、社会的観点から深掘りしたドキュメンタリーという期待をして鑑賞すると、若干物足りない。
掘り下げ方を甘く感じちゃんですよね。


例えば、逮捕された朴槿惠(パク・クネ)元大統領を未だに応援し続ける支持者たちを引き合いに出し、政治家の支持者と芸能人のファンが似ていることに気付いたと言うくだりが有る。
撮影当時まだハタチそこそこの学生だった吳世妍監督にとって、それは意外な気付きだったのかも知れないが、このドキュメンター『成功したオタク』を鑑賞する多くの中高年日本人にとっては、ハッとさせられるほどの見解ではないのでは。
多くの中高年は言われるまでもなく、対象が政治家だろうと芸能人だろうと、宗教にも似た盲目的な偶像崇拝があることなど、とっくの昔から感じていると思うんですよね。
古くはアドルフ・ヒトラー(1889-1945)のような絶大なアイドルだっていたし、近年のドナルド・トランプ、また日本の政界にも、何をしでかしても絶対に揺るがない熱烈な支持者を持つ政治家は複数いる。


また、老いも若きも推し活に夢中と言われている日本だけれど、私自身はそういう事に熱心にのめり込むタイプではないので、このドキュメンタリーを観ても「共感できるー」「わかる~」ともならなかった。
好きな芸能人が犯罪を犯したら確かにショックだろうけれど、どこか冷めた自分がいて、その状況をあっさり受け入れそうな気がする。
立ち直れないほどの絶望感に駆られたり、激しい怒りがこみ上げて来る人は、恐らくその前の時点で推しへの愛が非常に深いため、“可愛さ余って憎さ百倍”みたいに反動が大きいのでは。


この『成功したオタク』は、7年間推し活に青春を捧げたのに、その推しが犯罪者になり、裏切られた気分の女の子が、人から話を聞いたり撮影することで困惑の気持ちに徐々に整理を付けていく癒しのドキュメンターだと捉えれば、等身大の可愛らしい作品だと寛容に受け止められる。


あと、この『成功したオタク』を通して見た吳世妍監督のことはすごいと思いました。
察するに、吳世妍監督は非常に素直で、何事にも一途に一生懸命になる性格で、行動力も人一倍ある人なのではないだろうか。

だから、「鄭俊英、好きーっ!」となったら、近付きたい、自分のことを覚えてもらいたい、お話ししたいという強い気持ちに突き動かされ、数いるファンの中でも突出した“成功したオタク”になれたわけでしょ?
で、鄭俊英から「勉強してソウルの大学へ進学すれば」と言われたら、(鄭俊英にとっては大した意味のない、ただのファンに対する挨拶程度の言葉だったのかも知れないのに)必死に勉強して学年一番の成績をとり、ソウルの大学へ本当に進学。
さらに、その鄭俊英が逮捕されると、困惑しながらも、それを題材に即映画制作を開始。
鄭俊英の逮捕が2019年3月で、その約4か月後には『成功したオタク』の撮影を初めているんですよ。
そしてその長編監督デビュー作が釜山国際映画祭に出品され、海を越えたここ日本でも公開。

このお方はこの先どの分野で何をやっても、その頑張りとフットワークの軽さで一定の成功を得られるような気がしてきた。
いやはや、お見事でございます。


将来的にはもしかして劇映画を撮りたいのでは?
『成功したオタク』は、素人の女の子が量販店で買ったカメラで気軽に撮ったアマチュア作品のような印象さえ受けるけれど、吳世妍監督は映画について語る時、小津安二郎監督作品『お早よう』(1959年)や楊德昌(エドワード・ヤン)監督作品『ヤンヤン 夏の想い出』(2000年)を例に出したり、アニエス・ヴァルダ監督作品『アニエスの浜辺』(2008年)が好きだとも言っている。

成功したオタク 성덕

この画像の場所がどこなのかは不明だが、ここにも『ヤンヤン 夏の想い出』の他、韓国の洪常秀(ホン・サンス)監督作品『クレアのカメラ』(2017年)や中国の畢贛(ビー・ガン)監督作品『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯て』(2018年)のポスターが写り込んでいる。
もしこれらの作品がお好みなら、私が『成功したオタク』を観て漠然とイメージした吳世妍監督像とあまりにも掛け離れているため、一体将来的にはどのような作品を撮りたいのか少々気になった。
(好む映画が私ととても似ている気がいたします。)


あっ、あと、そう、最後にポスター。

成功したオタク 성덕

いつも日本の映画ポスターに文句タラタラの私ですが、この『成功したオタク』では、日本版ポスターの方が断然プロの仕上がりですね。
ぬQのイラストをフィーチャーし、潟見陽がデザインしたそう。


桜餅4種(+宮﨑駿新作アニメ in 中国)

君たちはどう生きるか~你想活出怎樣的人生


私自身は宮﨑駿監督のアニメーション映画に夢中になった経験がないので、普段敢えて調べることもないのだけれど、新作『君たちはどう生きるか』が2024年4月3日に中国で公開され、清明節興行トップに躍り出る好成績で収益を延ばし続けているとのことで、そのニュースが目に飛び込んできた。


君たちはどう生きるか~你想活出怎樣的人生

君たちはどう生きるか~你想活出怎樣的人生

中国版では、眞人(まひと)という主人公の声を劉昊然(リウ・ハオラン)があてているのですね。


他、主な声優陣の日中比較は以下の通り。


眞人(まひと)
  山時聡真(さんとき そうま)    劉昊然(リウ・ハオラン)

青サギ
  菅田将暉(すだ まさき)   大鵬(ダーポン)

ヒミ
  あいみょん   張含韻(チャン・ハンユン)

夏子(なつこ)
  木村佳乃(きむら よしの)    高圓圓(ガオ・ユエンユエン)

勝一(しょういち)
  木村拓哉(きむら たくや)    朱亞文(ジュウ・ヤーウェン)

大伯父
  火野正平(ひの しょうへい)    陳建斌(チェン・ジェンビン)


あちらは元々アフレコのスキルを持つ俳優が多いから安心して観ることができそう。
(朱亞文とか、俳優をやらずに声優だけでも生きていけそうなくらいアフレコが巧い。)


ご高齢の宮﨑駿監督に代わり鈴木敏夫プロデューサーが中国へ渡り新作をプロモーションした模様。

君たちはどう生きるか~你想活出怎樣的人生

このお写真を見て少々意外だったのは、長身でスタイルの良い劉昊然朱亞文と並んでも、大鵬が全然見劣りしていないという事実。
私は2018年に東京の舞台挨拶でナマ大鵬を見たことがあるのだけれど、もう少しふっくらした普通っぽい人という印象であった。
実は長身+小顔で“芸能人”って感じだったのですね。
当時の私の眼は節穴でありました。


で、声優をやった皆さまには、宮﨑駿監督からのサインが届けられたみたい。

君たちはどう生きるか~你想活出怎樣的人生

主演声優 劉昊然宛て。


君たちはどう生きるか~你想活出怎樣的人生

こちらは、左からの大鵬張含韻朱亞文陳建斌宛て。
みんな宛て名が簡体字で書かれている。
絵も描いてあると嬉しいですよね。


なお、張含韻は日本では現在BS11で主演ドラマ『玉面桃花 福を呼ぶ契約結婚~玉面桃花總相逢』が放送中。
全然話題作ではないのに、放送開始以降 当ブログのその記事へのアクセスがやたら多いので、意外と視聴している人が多いのかも。
『玉面桃花』だと張含韻の声は別人による吹き替えなのだが、こちらのアニメではちゃんと声優をやっているわけですね。





声優の顔ぶれを知ったら、中国語吹き替え版で『君たちはどう生きるか』を観てみたいという気にちょっとなって参りましたよ。

ちなみに、中国でのタイトルは、日本語原題に近い『你想活出怎样的人生』
一方、香港や台湾では“青サギと少年”を意味する『蒼鷺與少年』なのだと。






さて、2024年、東京では3月29日(金曜)に開花宣言された桜が、一週間後の本日4月5日(金曜)に満開になったそう。
昔は桜というと入学式の頃のお花だったのに、温暖化でどんどん前倒しになり、今や卒業式のお花になってしまったので、4月に咲いてくれるとちょっとホッといたします。
もっとも曇っていて、あまりお花見の雰囲気ではないのだけれど。
どうせなら、からっとした青空を背景に桜をめでたい。


お花見は後回しにして、ここではこの時期ならではの桜餅を4つ。
どれもそれぞれに違うから、楽しく頂けました。


追記:2024年4月7日(日曜)

桜 2024

画像は本日撮影の桜。
カラッと真っ青な空とまではいかなかったけれど、ここ数日の東京では一番の晴天で満開の桜を楽しめたので、良しといたします。


仙太郎:桜もち

一つめは、仙太郎公式サイト)の“桜もち”。 

仙太郎は明治19年(1886年)創業、京都発の和菓子屋さんなので、桜餅も関西風
私は近年お江戸風桜餅贔屓なので、仙太郎の桜餅は久し振り。


2024 仙太郎:桜もち

大きさは、長さ約5センチ。
道明寺にこし餡を包み、2枚の桜葉ではさんだ桜餅。


2024 仙太郎:桜もち

塩漬けの桜葉は2枚使用。
中に隠れているのは、小さな俵型の桜餅。

桜餅は関東風/関西風に関係なく桜色に染めた生地を使うのが一般的だが、仙太郎では白い道明寺なのが特徴的。
柔らかに粘り気が有りつつ、舌に微かに感じるツブツブした質感。


2024 仙太郎:桜もち

中にはこし餡
滑らかで、色は濃い目。


甘い餡と塩分が効いた桜葉の相性よし。


たねや:さくら餅

2つめは、たねや公式サイト)の“さくら餅”
これは昨年も食べた。


たねやでは、さくら餅のバラ売りはしていない。

2024 たねや:さくら餅

毬のような絵柄がエンボス加工された、長さ11センチほどの小箱入り。


2024 たねや:さくら餅

中にはお菓子が2個
3個入りという箱もある。


2024 たねや:さくら餅

大きさは、直径約4.5センチ。
白粒餡を包んだ道明寺に桜の花を一輪添え、一枚の桜葉で包んだ桜餅。


たねやは滋賀県発の和菓子屋さんなので、こちらもやはり関西風


2024 たねや:さくら餅

コロリと小さな円形で、薄く柔らかな塩漬けの桜葉一枚に、ミノムシのようにくるまれている。
表面には寒天がかけられツヤツヤ。
そこにさらに一輪の桜花が飾られている。


2024 たねや:さくら餅

一番の特徴は、中の餡子が白小豆を使用した白粒餡であること。
白餡の桜餅は少数派だし、白餡で粒餡というのもあまり無い。
少なくともお江戸では、白餡はこし餡が主流。

(食べ終えてから気付いたのだけれど…)その白餡は、最近 小林製薬のサプリメント“紅麹コレステヘルプ”の問題によって、悪い意味で注目度が俄然高まってしまった紅麹で染められている。
私は少量なら気にならないけれど、紅麴使用と聞き購入を控える人は多いかも知れませんね。
(…となると、来年はレシピを変更するかも?)

桜というより梅餡を彷彿させる色なので、反射的に酸味を想像してしまうが、実際にはさっぱりした優しい甘さの白餡。


コロンとした形が愛らしい。
小さいので食べ応えはないが、ちょっと甘い物が欲しい時や、そもそも普段好んで甘い物を食べないという人に良いのでは。


ならは:いちご道明寺

続いて、ならは公式サイト)から“いちご道明寺”
これは正統派の桜餅ではなくアレンジ桜餅。

この“いちご道明寺”という商品名は、もしや歌舞伎の演目として知られる『娘道成寺(むすめ どうじょうじ)』を意識して命名しました?


2024 ならは:いちご道明寺

大きさは、長さ約5センチ。
こし餡を包んだ道明寺の切り口に苺をはさみ、一枚の桜葉を添えた変わり桜餅。


ぱっくり開いた口に苺をはさんだ苺大福ならしばしば見掛ける。
あれを関西風桜餅に応用したのが、これ。


2024 ならは:いちご道明寺

道明寺はこれも白。
柔らか過ぎず、コシと粘りあり。

間にはさまっているのは、丸々一個の
福岡県産のあまおうを使用。


2024 ならは:いちご道明寺

この画像ではほとんど見えないけれど、こし餡も入っている。



苺がジューシーでとても甘ーい!
苺を邪魔せず、それどころか甘さを引き立てている少量の上品なこし餡、桜葉の香りと塩分、それら全てが上手く調和。

実はこれ頂き物で、期待せずに食べたのだけれど、思いのほか美味でありました。
苺と桜が意外にも合っているのです。
自分だとこういうのは邪道だと思って買わないから、他人様から頂かなければ出会えなかったであろうお菓子。


虎屋:桜餅

最後は、虎屋公式サイト)の“桜餅”

ようやくお江戸風桜餅
近年私が最も気に入っているのがこれ。


2024 虎屋:桜餅

大きさは、幅約5センチ。
こし餡と求肥を生地で四角く包み、上部に桜の花を一輪のせ、上下に2枚の桜葉を添えた桜餅。


2024 虎屋:桜餅

大きくて柔らかな桜葉を贅沢に2枚使用。
とても良い香り。
さらに、桜餅本体上部は桜の花で飾られている。


2024 虎屋:桜餅

ラングドシャのような生地でくるんと巻くタイプではなく、四角い袱紗包み
しっとり、ふんわりした質感の生地。


2024 虎屋:桜餅

中には藤色の上品なこし餡
そして、一番の特徴は求肥が入っていること。
もっちりした弾力のある求肥ではなく、トロンとした質感。
だから全体から浮くことなく、馴染んでいる。



近年はこの時期に欠かさず食べているけれど、やはり美味。
可能なら、販売期間中にまた食べたい。

記事検索
最新コメント
月別アーカイブ
読者登録
LINE読者登録QRコード