葉問4完結

【2019年/香港/105min.】 
1964年、香港。
数年前に妻・張永成を亡くした詠春拳の宗師・葉問が、医師から癌の宣告を受ける。
父が不治の病に侵されていることなど知る由も無い次男の葉正は、相変わらず学校で問題を起こしてばかりで、遂には退学処分。
葉問は、アメリカで成功した愛弟子の李小龍を訪ねることにかこつけ、葉正が通える学校を探すため、一人で渡米。

外国人の葉問にとって、息子を受け入れてくれる学校を探すことは容易ではない。
葉問は紹介状を書いてもらうため、サンフランシスコ唐人街華人総会を訪ねることに。
そこで待っていたのは、会長で太極拳の師匠である萬宗華をはじめ、武林の精鋭たち。
張り詰めた空気の中、葉問は歓迎されるどころか、あからさまな不快感をぶつけられてしまう。
彼らは、暗黙の掟を破って西洋人に武術を教えている李小龍に憤りを感じていたのであった…。


香港の葉偉信(ウィルソン・イップ)監督による『イップ・マン 序章』(2008年)、『イップ・マン 葉問』(2010年)、『イップ・マン 継承』(2015年)に続く『葉問(イップ・マン)』シリーズ第4弾にして最終章。

日本では、本来2020年5月8日に公開が予定されていたものの、想定外のコロナ禍により、緊急事態宣言が発令され、日本中の映画館が閉鎖という前代未聞の事態に。
幸いその後、映画館は再開し、当初の予定から約2ヶ月遅れとなったが、本作品も7月3日(金曜)に無事公開。

本作は約十年に及んだシリーズの締めなので、あらすじやキャストなど諸々を、前3作よりたーっぷり丁寧に記すことにいたします!


葉問

今更ですが、まずはタイトルにもなっている主人公について。

葉問
葉問 イップ・マン(1893-1972)。
清朝末期、広東省佛山で生を受けた詠春拳(えいしゅんけん)の宗師。

葉問+李小龍
かの李小龍 ブルース・リー(1940-1973)のお師匠さんとしても有名な実在の武術家。



映画『葉問』系列

続いて、葉偉信(ウィルソン・イップ)監督による『葉問』シリーズを簡単におさらい。

『イップ・マン 序章』(2008年)
1935年から香港へ移住する直前まで、広東省佛山時代の葉問を描いた物語。
時代背景が戦時下ということで、葉問の敵は日本の帝国軍人。




『イップ・マン 葉問』(2010年)
戦後、香港へ移住し武館を開く1950年からの数年の紆余曲折を描いた物語。
イギリス統治下の香港では、葉問の敵は宗主国のイギリス人。




『イップ・マン 継承』(2015年)
1959年からの約一年を描いた物語。
この頃、葉問が最も守りたいのは、家族という身近な存在。
取り分け、癌に侵された妻・張永成(?-1960)との夫婦愛が主軸。







すでに多くの人は気付いているだろうが、『葉問』シリーズは、実在した葉問という武術家を主人公にしてはいても、史実に忠実に葉問の生涯を描く伝記映画ではない。

いや、最初の一本は史実を比較的多く取り込みながら、葉問の人生の歩みを追う伝記映画の趣きがあった。
2作目になると史実が薄れ、3作目ではもうほぼ完全なフィクション

葉問という実在した人物はすでにヒーローキャラクターとして物語の中で一人歩きをしている。
“歴史上に実在した人物だけれど、もはや物語のキャラクター”という意味では、徐克(ツイ・ハーク)監督がシリーズ化した唐代の政治家・狄仁杰(630-704)や、“遠山の金さん”こと遠山金四郎景元(1793-1855)等にも近い。


『イップ・マン 完結』物語

葉問4完結

では、第4弾にして最終章の『イップ・マン 完結』は具体的にどのような物語なのか。
前3作からの流れで、ズバリ、葉問の晩年をアクションを絡めて描いた人間ドラマ





第3弾『イップ・マン 継承』で妻の張永成(?-1960)を亡くした葉問は、本作品では息子・葉正(1936-2020)を男手一つで育てるシングルファーザー。
反抗期の葉正は学校で度々問題を起こし、遂に退学処分。
そんな時、葉問は医師から癌の宣告を受けてしまう。
折しも、アメリカで截拳道(ジークンドー)の武館を開いた愛弟子の李小龍(1940-1973)から、試合観戦の誘いを受けていた葉問は、葉正が通える学校を探すため、一人渡米。

葉正をアメリカの学校に入学させるには、サンフランシスコ唐人街中華総会の会長で、太極拳の師匠である萬宗華からの紹介状が必要だと分かった葉問。

葉問4完結
早速、葉問は、中華総会を訪ねるが、李小龍の師匠にあたる彼は、アメリカを拠点にする各流派の師匠たちからことごとく嫌われ、紹介状どころではない。
原因は、李小龍が西洋人に中国武術を教えているから、…である。

その時、萬宗華から叩き付けられた問題の本は、こちら(↓)

葉問4完結
著:李小龍 <基本中國拳法~Chinese Gung Fu:The Philosophical Art of Self-Defense>
日本でも、1998年にフォレスト出版から日本語訳本が出たようだけれど、増版されていないみたい。


一方、萬宗華の娘・若男は、学校でチアリーディングのリーダーに選ばれたことで白人同級生ベッキーからヒガマれ、ひと悶着。
李小龍の弟子で、海兵隊華人隊員であるハートマンもまた、中国武術を見下して空手こそが最高の武術だと豪語する白人上官バートン・ゲッデス一等軍曹とひと悶着。

ベッキーの父親である移民局の高官アンドリュー・ウォルターは、アメリカからの華人一掃を目論み、萬宗華を不当逮捕。
バートン・ゲッデス軍曹もまた、中華総会の武術家たちを懲らしめようと、空手の教官コリン・フレイターを、唐人街で行われる中秋節の祭りの会場に送り込む。

葉問4完結
当初は、葉問VS他派の武術家だったのが、西洋人という共通の敵を前に「同じ中国人同士で争っている場合か?!」と団結し、中国人VS西洋人になっていくのは、シリーズ第2弾『イップ・マン 葉問』と似た展開。


但し、葉問自身は、他派のお師匠さんたちのことも、アメリカ白人のことも、敵だと思っていない。
相手から一方的に“敵認定”されてしまっただけ。
アメリカの発展に貢献したにもかかわらず、差別され、排除されようとしているアメリカ華人を理解しつつも、華人コミュニティという殻に閉じ籠っている彼らに、中国武術を通し西洋人と交流し、アメリカ社会に歩み寄ってみてはどうかと提案したりもする。





この『イップ・マン 完結』では、“親子”も重要なテーマで、二組の親子が登場。

葉問4完結
一組は、退学処分を受けた息子が学べる場所を探すため、癌に侵されながらも、当初行く気の無かったアメリカへ渡る葉問と、“親の心 子知らず”な次男坊・葉正の親子。

葉問4完結
もう一組は、中国の伝統的な考えに固執する唐人街中華総会会長で太極拳の師匠である萬宗華と、伝統や華人であることに縛られず、自由に生きようとする娘・萬若男の親子。

二組とも、子供は難しいお年頃で、親子間には確執あり。
そんな親と子が、徐々に心を通わせ、絆を確認する普遍的な親子愛が描かれている。


言語

言語は基本的に、広東語圏の俳優は広東語、北京語圏の俳優は北京語、英語圏の俳優は英語
葉問が広東語で喋り、萬宗華が北京語で返すといった広東語×北京語のキャッチボールがフツーに成立している。

もしかして、中華圏だと、完全広東語版と完全北京語版が制作されているのでは?
『イップ・マン 完結』に関しては未確認だけれど、中華圏の作品では珍しくない事である。
どうせ広東語もしくは北京語に吹き替えるのだから、俳優は自分が楽な方の言語で演じるという方法。
で、『イップ・マン 完結』日本公開版は、撮影時に同時録音した俳優の肉声版なのでは…?違います?

広東語と北京語で会話が成り立つなんておかしい!と言う人もいるかも知れないが、私はOK。
これまで日本では、著名な香港明星が主演する作品の場合、広東語版が選ばれ上映されていたが、随分前からそれにはもう無理があると感じていた。
だって一人の香港明星のために、他の多くの北京語圏俳優の声が広東語声優に吹き替えられちゃうんだもん。

近年だと、例えば、洪金寶(サモ・ハン)主演の『おじいちゃんはデブゴン』(2015年)。
多くの日本の映画ファンのお目当ては主演の洪金寶なので、彼の声が吹き替えられてしまった北京語版ではブーイングが起きるだろうから、広東語版を日本にもって来たのは理解できる。

でも、『おじいちゃんはデブゴン』の舞台は黒龍江省・綏芬河である。
コッテコテの中国東北地方の物語に広東語って、「・・・・。」
音の響きが土地の雰囲気にまったく合っていない。
それに、洪金寶の地声を活かすために、大陸の名優たちの声は広東語声優に吹き替えられちゃっているし。

広東語至上主義には同意しかねる。
ケース・バイ・ケースでしょ。
だから私は『イップ・マン 完結』の広東語×北京語キャッチボールもOK。

ちなみに、『葉問』シリーズで、主人公・葉問は、広東語では“イップ・マン”、北京語では“イエ・ウェン”、日本語では“よう・もん”と呼ばれている。


キャスト その①:一代宗師 葉問

葉問4完結
甄子丹(ドニー・イェン):葉問 イップ・マン(1893-1972)



映像世界でちょっとした葉問ブームが起こり、葉問は多くの俳優に演じられてきたけれど、“葉問俳優”と言われ、人々が他を差し置き名前を挙げるのは、この『葉問』シリーズ4作で主演を務めた甄子丹なのでは。

私が最も好きな“葉問作品”は王家衛(ウォン・カーウァイ)監督の『グランド・マスター』(2013年)で、主演の梁朝偉(トニー・レオン)は物静かな佇まいに古の武術家風情があって良かったと思っている。

でも、“葉問俳優”を挙げるなら、やはり甄子丹でしょうねぇ~。
シリーズ2作目からは、もはや“渥美清=寅さん”みたいに、“甄子丹=葉問”になっていたし、史実と離れ、葉問というキャラクターが独り歩きを初めていたので、『男はつらいよ』同様、『葉問』シリーズも延々と撮り続けられ、甄子丹のライフワーク化するのではないかと想像していた。

そうしたら、この第4弾でThe End。
甄子丹の言葉からは、俳優、クリエイターとして、前進したいという気持ちが汲み取れる。
例えヒットが見込めるシリーズでも、例え当たり役でも、そのイメージに縛られずに新たな事をやりたいのでしょう。
名残惜しいけれど、そういう気持ちは尊重したい。

今は甄子丹サマに、葉問をやり切り、お疲れ様!と言いたい。
最後の『イップ・マン 完結』での晩年の枯れた葉問も良かった。
二人の香港明星、甄子丹&陳奕迅(イーソン・チャン)とお誕生日が同じって事は、私にとってはプチ自慢であります。



キャスト その②:スタアな愛弟子 李小龍

葉問4完結
陳國坤(チャン・クォックワン):李小龍 ブルース・リー(1940-1973)



第4弾の制作が発表された際、その新作は李小龍絡みの物語になると噂された。
なので、世界的スタアとなった愛弟子と葉問師匠の交流物語になるのかと私は予想。
実際には、李小龍の扱いは、私が予想していたよりは小さかった。

『葉問』シリーズに李小龍が初登場したのは、第2弾の『イップ・マン 葉問』
50年代の香港が舞台なので、李小龍はまだ子供。

葉問4完結
小生意気なプチドラゴンを演じていたのは、蔣岱言(ジャン・ダイイェン)

蔣岱言は、河南省鄭州出身の少年。
1999年生まれだから、もうハタチを過ぎているはず。
最近は芸能活動をしている様子がない。

蔣岱言から李小龍役を引き継いだのは、陳國坤
『少林サッカー』(2001年)で日本でも広く知られるようになった、あの陳國坤。
陳國坤の李小龍は、第3弾『イップ・マン 継承』で初登場。
葉問を訪ね「オレを弟子にしろ」と迫るが、お断りされてしまう。

李小龍は、どうやら第3弾と第4弾の間の空白期間に弟子入りが叶い、さらにはアメリカへ渡り、この第4弾ではすでに在米華人武術家として成功している。


1975年生まれの陳國坤は、32歳で亡くなった李小龍の年齢を超えているけれど、相変わらず似ている。

葉問4完結
葉問&李小龍の有名なツーショット写真を真似、甄子丹&陳國坤で撮ったこんなポスターも。
李小龍の胸ポケットから、眼鏡のツルが出ているところまで再現(向きは逆だけれど)。芸が細かい。





映画を観ていて、一つ気になったのは、終盤の葉問のお葬式シーン

葉問4完結
有名になった愛弟子・李小龍も参列。

葉問が亡くなったのは、1972年12月2日。
李小龍が亡くなったのは、それから僅か7ヶ月後の1973年7月20日。
李小龍は長患いしていたわけでも老人でもなかったので、師匠の葬儀への参列は当然可能だったであろう。
でも、実際に参列したのか?もしかしてこのシーンは映画のための演出?という疑問が。

そこで、ちょっと調べてみたら…

葉問4完結
李小龍は、現実にも葉問師匠の葬儀に参列しておられた。
ちゃんと義理堅かった李小龍。


キャスト その③:太極拳師傅 萬宗華

葉問4完結
吳樾(ウー・ユエ):萬宗華 ワン・ゾンホア



吳樾が葉偉信監督に出逢ったのは、2009年の上海國際電影節(上海国際映画祭)。
自分は『葉問』のファン、『葉問2』に出たい!とアピールしたものの、葉偉信監督から「ご縁があれば」と素っ気なく返され、その“ご縁”を待つこと約十年、ようやく叶った『葉問』シリーズへの出演である。
私が『イップ・マン 完結』の公開を待ち望んでいた一番の理由も、その吳樾を日本の大スクリーンで見たかったから。
おめでとう、吳樾!

与えられた役は架空の人物・萬宗華。
太極拳の師匠にしてサンフランシスコ唐人街華人総会の会長。

私にとっての『イップ・マン 完結』一番の対戦は…

葉問4完結
甄子丹の詠春拳VS吳樾の太極拳 対決、これに尽きる!

太極拳を扱った映画は過去にも多々あり。
そこで吳樾が考えたのは、いかにこれまでとは異なる太極拳を見せられるか。
太極拳の先生と話し合った結果、通常の太極拳では見られない型を多用し、太極拳の内力を表現することに決定。

私はそもそもどういうのが“通常の型”なのか分かっていないのが、吳樾サマに申し訳ない…。
ただ、素人には“公園で行う健康体操”というイメージさえある太極拳を、対戦の武術として披露していること、また、通常か否かに関係なく型の美しさで、スクリーンに目が釘付けになった。

吳樾は、中国最高ランクの“武英級”の称号を国から受けた一流の武術アスリートでありながら、名門・中央戲劇學院で演技を学んだ異色の経歴の持ち主。
アクションが無くても充分通用する実力派の俳優なので、演技にも引き込まれる。
一言の英語も喋らず、アメリカ華人3世を演じ切るのもスゴイし(笑)。
いや、冗談はさて置き、伝統や華人であることに誇りがあるゆえ、少々意固地になってしまっている頑固オヤジから、やがて角が取れていく萬宗華が、ふと見せる柔らかな表情に、こちらもホッとさせられた。

俳優・吳樾の評価が日本で低いことに、私は甚だ不満。
日本人よ、吳樾にいい加減目覚めよ!という思いで吳樾についてまとめたので、以下参照。




キャスト その④:アメリカ海兵隊

葉問4完結
スコット・アドキンス:バートン・ゲッデス



筋肉ファンの皆さま期待のキャストはスコット・アドキンス from イギリス。
中華作品出演は、吳京(ウー・ジン)監督主演作『ウルフ・オブ・ウォー ネイビー・シールズ傭兵部隊 vs PLA特殊部隊』(2015年)以来か?

今回演じているアメリカ海兵隊一等軍曹のバートン・ゲッデスもまた悪役。
絵に描いたような白人至上主義者を憎々しく演じている。

ただ、ゴリゴリ白人至上主義の軍人たちが空手推しで、しかも大勢で揃って「押忍っ!」とか言っちゃうのは、ピンポイントに華人だけを標的にした“ユルユル白人至上主義”って感じで、若干間抜けにも見えた(苦笑)。

映画の最後の説明によると、2001年、アメリカ海兵隊は中国武術を必須訓練に加えたとのこと。
私が読んだ中国の記事はちょっと違っており、「アメリカ海兵隊は2001年に近隣戦闘訓練にためのプログラム、海兵隊マーシャルアーツプログラム(MCMAP:Marine Corps Martial Arts Program 美國海軍陸戰隊格鬥術課程)を開発し、そのベースは空手、中国武術、テコンドー、ムエタイ等々アジアの武術が取り入れられている」という説明であった。
どちらが正しいのか分からない。軍事マニアの皆さまは御存知でしょうか。




葉問4完結
吳建豪(ヴァネス・ウー):吳赫文 ハートマン・ウー


ハートマンは、バートン・ゲッデスの部下にあたる海兵隊二等軍曹のアメリカ華人で、李小龍の弟子。
中国武術を海兵隊の訓練に取り入れようとしたことで、元々白人至上主義の上官バートン・ゲッデスの怒りに火をつける。

“中の人”吳建豪もハートマンと同じように、アメリカで生まれ育った華人で、ハートマンの役は自分に適していると語っている。
吳建豪自身、子供の頃、似たような経験をしたし、5歳の時『ドラゴン怒りの鉄拳』(1972年)を観て以来、李小龍を崇拝している点もハートマンと同じだと。

でも、『イップ・マン 完結』で別の役を演じられるなら誰がいい?という質問には、なんと自分をイジメたバートン・ゲッデスを挙げている。
「甄子丹と対戦できるんだよ!クールだ!」と(笑)。

吳建豪はデビューこそアイドルF4だけれど、案外ヘンな役とか悪役を嫌がらないんですよね。
映画『道士下山』(2015年)やドラマ『王女未央 BIOU~錦繡未央』を観て、そう思った。

アイドル時代、F4の中でも一番の筋肉自慢だったし、『葉問』シリーズに参加できて嬉しかったのでしょうね~。
(ハートマンの武術の腕は今ひとつなので、アクションの見せ場はあまり無いが。)

吳建豪の台詞は基本的に英語北京語だが、作品序盤のダイナーのシーンで口にする広東語は吹き替えよねぇ…?
本人の声と全然違った…。


キャスト その⑤:子供たち

葉問4完結
李宛妲(ヴァンダ・リー/リー・ワンダー):萬若男 ワン・ルオナン


萬若男は、唐人街華人総会会長・萬宗華の娘。
女の子に“若男”と命名する感覚は、日本には無くて、面白いですよね。
設定こそ女の子だけれど、“武術家の親のもとでアメリカ育ち”という点で、甄子丹が重なる。
(甄子丹の場合、武術家の親は母。)


葉問4完結
萬若男は、中国の伝統を重んじる父親とは違う今どきの活発な女の子で、チアリーディングが大好き。
でもそのチアリーディングで、リーダーに選ばれたことで、白人同級生ベッキーからイジメの標的に。

葉問4完結
たまたま通りがかった葉問に助けられ、以降、“葉叔叔”と年の離れた友人になっていく。


ちょっと不思議に思ったのは、萬家に母親の影が一切ないこと。
若男は東西混血の女の子に見えるが、父親の萬宗華は西洋人を忌み嫌っている。
若男の母親は誰なのでしょう?
そして、萬宗華はどういう経緯でシングルファーザーになったのでしょう?!
萬宗華の西洋人アレルギーには、若男の母親も関係…?
う~ん、この萬親子でスピンオフが一本撮れそう。


そんな若男を演じているのは、本作品でスクリーンデビューを果たした新星・李宛妲
雲南省 西雙版納(シーサンパンナ)出身、現在は北京で学生をしている中独混血。
可愛いですよね。
気になって、“Vanda Margraf”で検索する人が多いみたいだけれど、“Margraf”の姓は現地で使われていないし、ましてや片仮名で“ヴァンダ・マーグラフ”と検索したところで、ロクな情報は引っ掛かってこない。
“華人俳優の名は漢字で覚える”という当たり前の事を、日本人もいい加減学んだ方がいい。

李宛妲ちゃんについてもっと知りたい方は以下の“大陸美女名鑑:李宛妲”をどうぞ。






葉問4完結
葉禾(イエ・ハー):葉正 イップ・チン(1936-2020)


萬若男に比べ出番は少ないが、『イップ・マン 完結』は親子映画なので、葉問の息子・葉正も重要な役。
葉正は勿論実在の人物で、葉問の次男。

葉問4完結
在りし日のパパと葉正の合影。

葉問4完結
葉正を単独でも。

次男・葉正は、長男の葉準(1924-)に比べ、メディアに出てくることはあまり無かった。
残念ながら、『イップ・マン 完結』日本公開を待たず、2020年1月25日にお亡くなりに。
享年83歳。


この葉正は、1959年で幕開けする第3弾『イップ・マン 継承』にすでに登場。

葉問4完結
演じていたのは、2007年生まれの王實(ワン・シー)

葉問が、長男・葉準を故郷の佛山へ送ったため、香港では小学生の次男・葉正が一人っ子状態。
武術が好きで、元気があり余り、学校で問題を起こすという設定は、そのまま第4弾『イップ・マン 完結』に受け継がれている。


しかし、その設定は完全なフィクション。
現実には、1949年、葉問は佛山に妻子を残し、取り敢えず単身で香港へ渡るが、その後、1951年に香港辺境が封鎖。
妻の張永成は、葉問と再会を果たせぬまま、1960年に佛山で死亡。

次男の葉正が、兄の葉準と共に佛山から香港へ渡ったのは1962年
つまり、すでに二十代半ば。
葉正が香港の学校でやんちゃをしてパパを困らせたことなんて、現実には無かったわけ。
(さらに言ってしまうと、実際の葉問はアメリカへ行ったことがない。でも、それを言っちゃうと『イップ・マン 完結』が成立しない。 …笑)

但し、葉問と葉正の親子関係がギクシャクしていたのは確かみたい。
離れて暮らしていた期間が長かったし、香港で単身状態の葉問が上海女性との間に子供・葉少華(1955-)を作ったことが、正妻の息子としては耐え難かったようだ。
葉問の女性問題に触れている作品に興味がある人は、黃秋生(アンソニー・ウォン)が葉問を演じる『イップ・マン 最終章』(2013年)をどうぞ。


そんな葉正を『イップ・マン 完結』で演じているのは、葉禾
“葉”という姓を見て、えっ、もしかして葉問の子孫が特別出演?!と一瞬思ったが、…違った。
過去の出演作を見て分かった、葉禾は大陸ドラマにちょこちょこ出てくる子役。
2003年生まれとのことなので、もうハイティーンになっていたのですね。へぇー。
演技の仕事は7歳からやっているので、少年でも芸歴は結構長い。
これからは、徐々にオトナの役にシフトして行くのでしょう。


キャスト その⑥:在米 武林のお師匠さんたち

葉問4完結

『イップ・マン 完結』には、太極拳の萬宗華以外にも、他の流派のお師匠さんたちが登場。
出番は決して多くはないけれど、猴拳や七星螳螂拳といった武術を見せるシーンが用意されている。




葉問4完結
周小飛(ジョウ・シャオフェイ):蔣雪來 ジャン・シュエライ


一人だけ取り上げるなら、紅一点の蔣師傅!
形意拳のお師匠さん。

扮する周小飛は、付け焼き刃ではなく、本当に武術ができる武術隊出身の女優。
武術を始めたのは5歳で、萬宗華役の吳樾と同じように、武術アスリートとして最高ランクの“武英級”の称号を国から授かっている。

武英級の称号を持っている俳優を女性に限定すると、戈春艷(か・しゅんえん)蔣璐霞(ジャン・ルーシア)とこの周小飛の3人だけらしい。
戈春艷は、近年、指導者として忙しいようなので、武英級ホルダー現役女優は、実質二人だけかも。
人口14億の超大国で二人きりって、スゴくなぁーい…?! 2/14億ヨ。びっくり。

周小飛が“葉問モノ”に出演するのは初めてではなく、『グランド・マスター』(2013年)にも出演。

葉問4完結
『グランド・マスター』で演じたのは、八卦掌の名手、金樓の三姐。

本作品『イップ・マン 完結』でアクション指導を担当している袁和平(ユエン・ウーピン)が監督している甄子丹楊紫瓊(ミシェル・ヨー)主演作、『グリーン・デスティニー』(2000年)の続編『ソード・オブ・デスティニー~臥虎藏龍:青冥寶劍』(2016年)にも出演。
だから、袁和平や甄子丹とは元々面識があっての『イップ・マン 完結』なのでしょう。
登場シーンは多くはないけれど、形意拳を披露する周小飛はカッコイイ。





物語はベタで単純。
実在の人物の年齢や時代を考えると、辻褄の合わない事が多く、ツッコミ所も満載。
有名な李小龍の登場や、手に汗握るアクションで盛り上げ、ホロリとさせる人間ドラマもあって、勧善懲悪でスカッとさせる、…という王道の娯楽映画。

『葉問』シリーズは、皆が楽しみにしている“お祭り映画”という印象。
李小龍や成龍(ジャッキー・チェン)の全盛期ならともかく、中華圏の作品が決してメジャーとは言えない昨今の日本で、こういうタイプの中国語作品は珍しい。
映画館の中は赤の他人ばかりなのに、映画が唯一の娯楽だった昭和の頃みたいな、妙な一体感のような“気”を感じるんですよね~。

私は、今や“葉問御用上映館”となっている新宿武蔵野館で鑑賞。

葉問4完結
武蔵野館には毎度の木人樁が設置。

そして、やはり添えてあった“お願い”

葉問4完結
「この木人は天然の素材を(使用)しておりませんので、武道有段者(黒帯)およびプロの方のご使用は軽く叩く程度で、一般の方も過度な打ち込みはご遠慮ください。」(笑)

残念なのは、コロナの感染予防対策で、座席を半分しか売り出していないこと。

葉問4完結
空いた席にはお師匠さんたちが。
これは楽しいアイディア。お気に入りキャラの隣りの席を押さえられた人はラッキー。
(画像は、新宿武蔵野館公式より)

武蔵野館の上映では、満席になる回が多いようですね。
私が行った時も満席。
私はなんとか席を確保できたけれど、私よりちょっと後の人は諦めざるを得なかったみたい。
みすみす儲けが見込める作品で、客を断らなければならないなんて、映画館はもどかしいであろう。
ミニシアターの運営が本当に心配になる…。
もし『イップ・マン 完結』の公開期間が長くなって、少し空いたら、普段日本のスクリーンではなかなかお目に掛れない吳樾と、葉問師匠最後の雄姿を拝むために、おかわり鑑賞に行こうかしら。