吳中天

大陸ドラマ『摩天楼のモンタージュ Horizon Tower~摩天大樓』

摩天大樓

2019年10月20日、中国 雙和市。
タワーマンション 摩天大樓(ホライズン・タワー)20階の部屋で、そこの住人である若い女性が遺体で発見される。

早速現場検証に訪れたベテラン巡査 鐘敬國と、部下の楊蕊森。
楊蕊森の聞き込みによると、被害者は、階下でカフェを営む29歳の女性 鐘美寶。
ここには一人で暮らし、普段は仕事に忙しく、外出はほとんどせず。
外傷は頭部の打撲のみで、性的暴行の痕跡なし。
部屋が荒らされていないことから、顔見知りによる犯行の疑い。

携帯電話は見付からず。
防犯カメラもなし。
プライバシーの侵害になると住民たちの抵抗が強いことから、建物共有部分を残し、他のカメラはほとんど撤去されたという。

そこで、鐘敬國は、鐘美寶の知人を一人ずつ当たっていくことに決める。
一人目は、第一発見者である警備員の謝保羅。
なんでも、遺体発見当時、自分のせいで美寶が殺されたと大声で叫んでいたという…。


2021年3月4日(木曜)、wowowでスタートした大陸ドラマ『摩天楼のモンタージュ Horizon Tower~摩天大樓』が、約一ヶ月半後の4月下旬、全16話の放送を終了。


wowowは、これの前に放送した『バッド・キッズ 隠秘之罪~隐秘的角落』があまりにも良く、これの後に控えている『ロング・ナイト 沈黙的真相~沉默的真相』も評判のドラマ。

そんな訳で、2本の名作に挟まれたこの『摩天大樓』への私の期待は低く、「つまらなくても、次に本命の『沈黙的真相』が来るから許せる。万が一面白かったら、拾い物」程度の気持ちで視聴。

結果的に“拾い物”でありました。
ラッキー♪


当ブログからの盗用を見る度にイヤな気持ちになります。きちんとリンクをお願いいたします。)


概要

2020年8月、騰訊視頻(テンセント)で初配信されたwebドラマ。


原作は、2015年に出版された陳雪(チェン・シュエ)の小説<摩天大樓>

摩天大樓

陳雪は、1970年、台湾 台中市出身。
同性愛、セクシャルマイノリティを扱うジャンル“同志文學”で知られる著作が多い女性作家。
作品の映像化はこれが初めてではなく、過去には<蝴蝶>が、香港の麥婉欣(ヤンヤン・マク)監督により『蝴蝶 羽化する官能』(2004年)という映画に。





メガホンをとったのは、陳正道(レスト・チェン)許肇任(シュー・ジャオレン)吳中天(マット・ウー)という、こちらも台湾からの3人が共同で監督。

摩天大樓

3人同等にクレジットされているが、年長者は、1971年生まれの許肇任監督。
過去に『愛情合約 Love Contract~愛情合約』のような偶像劇や客家ドラマ『出境事務所~Long Day's Journey into Light』等を台湾でヒットさせ、2017年、『酸甜之味~Family Time』では、第52回 金鐘獎で監督賞も受賞。

…が、『摩天大樓』で実際のまとめ役的存在は、早くから北京に拠点を移し、大陸での実績がある陳正道監督ではないかと想像するし、私自身の関心が高いのも陳正道監督。


摩天大樓

台湾の“ちん・まさみち”こと陳正道は、1981年、台湾 台北市出身。

マサミチは早熟な監督で、中原大學 商業設計系(商業デザイン科)在学中に広告の世界で頭角を現し、2004年、23歳の時には中篇『狂放~Uninhibited』が第61回ヴェネツィア国際映画祭 国際批評家週間、第17回東京国際映画祭 アジアの風部門に入選。
翌2005年には、長編処女作であるホラー映画『宅變~The Heirloom』が地元台湾でちょっとしたヒット。
『宅變』は後々日本でも『DEATH HOUSE デスハウス 悪魔の館』という邦題でDVDが発売されるのだが、日本の映画ファンにマサミチの名を知らしめた作品と言えば、『花蓮の夏』(2006年)!

花蓮の夏

『花蓮の夏』は私も好きで、何度も観ましたヨ。
この映画の成功で、マサミチは台湾文芸作品若手のホープとして、地元台湾で地道に映画を撮り続けていくのかと思いきや、あっさりと大陸に活動拠点を移したから、あまりの潔さに驚いた。

しかも、大陸に拠点を移してから発表したのは、いずれもバリバリの商業作品。

摩天大樓

日本でも正式に公開されている物だと、例えば、フジのメガヒットドラマを中国版映画にリメイクした『101回目のプロポーズ~SAY YES』(2013年)や、『怪しい彼女』(2014年)の中国版『20歳よ、もう一度』(2015年)等。


若くして映画の世界で一定の成功を収めたマサミチは、webドラマにも着手。

摩天大樓

それが、許肇任と共同監督した偶像劇『千年のシンデレラ Love in the Moonlight~結愛·千歲大人的初戀』
その『千年のシンデレラ』がつまらなかったので、『摩天大樓』も大丈夫か?!と不安がよぎったのだが、陳正道&許肇任のコラボは続き、今年は新たなwebドラマ『愛很美味~Delicious Romance』の公開が控えている。


摩天大樓

最後の一人、吳中天は、1981年生まれ。
見ての通り美男子で、俳優出身。
脇役で台湾偶像劇から文芸作品にまで幅広く出ていたが、2014年、短編『四十三階』で監督デビュー。
2016年には、長編処女作『天亮之前~One Night Only』を発表。
それのプロデュースと脚本を担当したのが、マサミチ。

最近はもう俳優業より監督業の比重の方が大きいのかも。
私が演じている吳中天を見たのは、ヤーさん役で出演している映画、鍾孟宏(チョン・モンホン)監督作品『ゴッドスピード』(2016年)が最後。





他の裏方スタッフも、例えば、撮影の林志堅(チャーリー・ラム)、美術の羅順福(ルオ・シュンフー)等、これまでマサミチと一緒に映画を作ってきたお仲間たちがそのまま多く起用されている。

脚本家陣も然り。
任鵬(レン・ポン)殳俏(シュー・チャオ)沈洋(シェン・ヤン)易帥婕(イー・シュアイジエ)、みんな『摩天大樓』一回ポッキリではなく、その前後にマサミチとコラボしている馴染みの脚本家。

中でも、マサミチとの関係が深い脚本家といえば任鵬
四川省 瀘州出身の任鵬は、元々は脚本家志望ではなく理系出身。
成都の西南交通大學卒業後は、大好きな推理小説を執筆しながら不動産会社に勤務。
マサミチとは友人を介して知り合い、その頃マサミチが準備していた『ラブ・オン・クレジット』の脚本を読み、忌憚のないご意見をズケズケと述べ、マサミチを不快にさせたという。

そんな最悪の出会いだったにも拘わらず、マサミチは友人の薦めで任鵬の小説を読み、『催眠大師~The Great Hypnotist』(2014年)のプロット作りに興味がないかと打診。
こうして、2011年、29歳の任鵬は、不動産会社を辞め、北京へやって来て、以降数多くの陳正道監督作品に関わる脚本家となっている。

記憶の中の殺人者

画像右側がマサミチで、左側の“毒気を抜いた陳正道”って感じなのが任鵬。
いくら感性の合うお仲間だとしても、監督&脚本家コンビが、ここまで血縁者並みに似ているのは珍しい。


物語

タワーマンション摩天大樓の一室で美しい女性 鐘美寶が遺体で発見された案件で、捜査を進める中、関係者からの証言で徐々に浮かび上がる鐘美寶の過去や背景を描き、彼女の死の謎に迫るヒューマン・ミステリー


中国語の原題になっている『摩天大樓』は、日本語と同じで、通常は、高層建築、Skyscraperの意味。
このドラマでは、固有名詞。
中国 雙和市郊外に建つ、A棟、B棟、C棟、D棟の4棟から成るマンションの名称が“摩天大樓 Horizon Tower”

鐘美寶の遺体が発見されたのは、彼女の住居である摩天大樓の一室で、警察の尋問を受ける関係者も、多くは摩天大樓の住人。
ドラマは、そのような摩天大樓を中心に繰り広げられる一種のワンシチュエーションものとも言える。


ドラマの構成は、一人の証言=一つのエピソードに各2話
計7名による7つのエピソードが、接点を持たせながらオムニバス的に綴られ、最終的に謎を解き明かす仕組み。


原作者 陳雪は、2003年に高層の集団住宅区に引っ越し、そこに様々な人が暮らしているのを見て、まるで都市の縮図のようだと感じ、いつか高層住宅を舞台にした作品を書いてみたいと思ったという。

恐らく原作の<摩天大樓>は、現代社会を反映した内容であり、“摩天大樓”という高層住宅=社会に生きる人々を描く群像劇、人間ドラマという側面が強い小説で、ドラマ『摩天大樓』は原作小説にミステリー要素を加味し、異なる作風に調理し直されたのではないかと察する。





ちなみに、原作小説で舞台となる街は、台湾 新北市の雙和
(新北市の中で、隣り合った“和”が付く二つの区域、中和区と永和区を合わせ、“雙和”と称される。)
原作者の陳雪が実際に生活した街が、まさに新北市の雙和で、そこを小説の舞台に。

中国大陸を舞台にしたドラマだと、当然架空の街ということになり、実際の撮影は、四川省 成都で。


人物相関図

摩天大樓

被害者 鐘美寶を巡る人々の相関図を。

以下、それぞれの関係者(各エピソード)について。


謝保羅篇

第1話+第2話
脚本:沈洋(シェン・ヤン)易帥婕(イー・シュアイジエ)


 謝保羅  職業:摩天大樓 警備員
生年:1984年
学歴:曼城大學 国際経済+金融貿易学部 卒
前職:雙和商業銀行 銀行員
鐘美寶との関係:同じ建物の警備員と住人であり、友人



摩天大樓の警備員で、鐘美寶の遺体の第一発見者。
警備員とは言っても、受け付けの対応から、水道、電気の補修、パトロールまで何でもする便利屋。

実は名門 曼城大学を卒業しており、前職は雙和商業銀行の銀行員というエリート。
5年前の2014年は、まだ銀行勤めで、全てが順風満帆。
恋人 孫婷との結婚に備え、ちょっと背伸びをして、摩天大樓に4LDKの部屋を買って、そこで子供を育てたいと明るい未来を思い描いていたが、9月のある朝、運転していた車で女性を轢き、人生が暗転…。

鐘美寶と出逢ったのは、彼女が摩天大樓に転居してきた2年前の停電の日。
暗闇で、謝保羅の身の上話を聞いた美寶は、親のいない者同士で共鳴し、以降は仲の良い友人に。


ところが、この謝保羅の話には、数々の矛盾点。
恋人であったはずの孫婷は、2015年に、謝保羅からのストーカー被害で、110番通報。
摩天大樓で停電が起きたのも、2年前ではなく、一年前…。


摩天大樓

呂聿來(ルー・ユーライ):謝保羅

1982年、四川省出身、近年は監督業もやっている俳優さん。
私、呂聿來が、こういう商業ドラマに出ているのを見るのは今回が初めて。
私にとっては、呂聿來というと、『孔雀 我が家の風景』(2004年)の高衛強や、『項羽と劉邦 鴻門の会』(2012年)で演じた秦の最後の君主 子嬰(?-紀元前206)の印象が強い。
最近では、日本人監督 近浦啓(ちかうら・けい)の処女作『コンプリシティ 優しい共犯』(2018年)で主演。

摩天大樓

藤竜也と共演しております。

良く言えば繊細、悪く言うと弱々しい印象の呂聿來は、神木隆之介系統とでも言おうか、中国より日本にいそうな感じの俳優。
事故をきっかけに何もかも失った悲劇の元エリート銀行員という皮を被っているけれど、実は人生における数々の挫折で心に闇を抱く卑屈な男で、何か裏が有りそう…と疑わせる『摩天大樓』の警備員に合っている。


林大森篇

第3話+第4話
脚本:殳俏(シュー・チャオ)


 林大森  住まい:摩天大樓 B棟 1602号室
職業:建築家
英語名:Eason
妻:李茉莉
鐘美寶との関係:子供時代の友人で、大人になって再会してからは不倫


“林大森(はやし・おおもり)”という上も下も苗字みたいな(笑)氏名の建築家。

18年前の子供時代、美寶と同じアパートに住んでいたが、盗難事件を機に引越し。
2年前に、有名教授 李敬深の娘で、曼城大学で2学年下の後輩だった李茉莉と逆玉の輿婚。
自分より優秀だったが、結婚で家庭に入った李茉莉のアイディアを盗用するように。

その頃、美寶と再会し、不倫関係に発展。
愛人である美寶に、自分が暮らしている建物 摩天大樓内の別の部屋をタダで宛がい、住まわせる。


摩天大樓

鄭人碩(チェン・レンシュオ):林大森

1982年、台湾 台北市出身。
鄭人碩は『摩天大樓』メインキャストの中で唯一の台湾俳優。

『酔生夢死』(2015年)など張作驥(チャン・ツォーチ)監督作品で注目されるようになったが、その後も商業作品への出演は多い方ではない。
徐若瑄(ビビアン・スー)との共演作で、日本にも入って来ているホラー映画『人面魚 THE DEVIL FISH』(2018年)は、台湾でヒットしたため、地元ではそこそこ知られているはずだが、大陸では目立った実績はなく、知名度も低いはずなので、『摩天大樓』への起用は大抜擢という印象。
彼が主演した賴國安(ライ・グォアン)監督による台湾映画『上岸的魚~A Fish Out of Water』のプロデュースを手掛けたのが、『摩天大樓』監督陣3名の内の一人、許肇任監督なので、恐らくそこら辺の繋がりかしら~、と想像。
地道に築いてきた人脈が活かされて良かった、良かった。


林夢宇篇

第5話+第6話
脚本:沈洋(シェン・ヤン)


 林夢宇  住まい:摩天大樓 C棟 1218号室
職業:不動産仲介業者
趣味:覗き
妻:沈美琪
愛人:丁小玲
鐘美寶との関係:趣味の覗きで、彼女を一方的に観察


林夢宇は、不動産仲介業という職業柄、内見用に摩天大樓各部屋の合鍵を多数所有。
それらの鍵を使って、愛人の丁小玲と他人の部屋に勝手に入り、コスプレごっこを楽しんでいたが、不覚にも弁護士の王に見付かり、通報されそうになり、仲介料1345000元を無料にする代わりに、訴えを取り下げてもらった経験あり。

林夢宇もう一つの趣味は覗き。
天井づたいに住民の部屋を覗くのが好きな変態で、取り分け美寶には夢中になり、頻繁に覗き、裏表のない女性であると彼女の人柄を評価。

覗いていた林夢宇には、当然美寶殺しの容疑が懸かるが、彼の妻 沈美琪が、その疑惑を否定。
なぜなら、沈美琪は、夫が夢中になっている美寶に興味が湧き、同じように天井づたいに彼女を覗いていたため、夫は殺していないと確信。


摩天大樓

馬亮(マー・リャン):林夢宇

1983年、黑龍江省 哈爾賓出身、中央戲劇學院で学んだ俳優。

これまで大ブレイクすることなく、色んな作品に脇役でちらりちらりと出演。
美男子ではないけれど不細工でもないフツーの中年男性という容貌なので、『摩天大樓』での不動産仲介業者というフツーの役は合っていると思ったが、話が進めば進むほど、コスプレだの覗きだのといった変態趣味が露見してきて、フツーな見た目とのギャップで、おかしみを誘う。
憎めない変態ですわ。(実際にこういう人がいたら困るけれど。)


吳明玉篇

第7話+第8話
脚本:易帥婕(イー・シュアイジエ)


 吳明玉  住まい:摩天大樓 C棟 2002号室
職業:作家
病:精神障害
鐘美寶との関係:互いに合鍵を持つ仲の良い隣人


元々は活動的であったが、飛行機を怖がる恋人に無理を言って一緒に海外旅行へ行ったところ、無差別テロに遭遇し、彼が死んでしまったという悲しい過去あり。

自著の<祥雲幻影錄>は、ドラマ化が予定されているベストセラー。
この<祥雲幻影錄>は、美玉と隽辰という姉弟が主人公のファンタジー小説。
弟の隽辰を捕らえ、仲間の鶴と銀狐も殺した魔君と、いやいや結婚したはずの美玉が、最後には有ろう事か魔君を愛するようになるという不可解なオチの物語。

主人公 美玉は、異父弟がいる美寶を重ねた役なのか?
鶴と銀狐にも、実際の人物が投影されているのか…?と疑問が残るが、<祥雲幻影錄>は第3部が未発表のまま。

1959年に実際に起きたクラッター一家殺人事件にヒントを得、<冷血>を書いたトルーマン・カポーティ(1924-1984)は、取材のため交流していた事件の加害者ペリー・スミスが死ぬと、小説を書けなくなってしまった。
もしかして吳明玉も、美寶の死で、書けなくなったのか?


このエピソードの特徴は、アニメーションの多用。

摩天大樓

吳明玉が書いたという設定の小説<祥雲幻影錄>の物語が、アニメーションで表現されているのだ。
そのアニメを担当したのは、槐佳佳(フアイ・ジアジア)
彼が監督したアニメ『大理寺日誌~White Cat Legend』(2020年)は、日本でも観ている人がぼちぼちいるようですね。


摩天大樓

孔雁(コン・イェン):吳明玉

1986年、上海出身、中央戲劇學院卒。
私は、初めて見る女優さん。
主に舞台を活動の場にしてきた人で、特に孟京輝(モン・ジンフイ)監督が演出する舞台に数多く参加。

日本に住んでいると、海外の舞台俳優のことはなかなか知り得ないけれど、この孔雁は孟京輝監督の舞台で主役を張っていたようなので、もしかして中国の演劇ファンの間では、元々そこそこ知られた存在だったのでは?
2017年に芸能大手と契約してから、活動が映像作品にも広がってきているように見受けるので、我々日本人もこの先孔雁出演作に触れる機会が増えるかも知れない。

顔立ちは、趙薇(ヴィッキー・チャオ)をワイルドにした感じ。
『摩天大樓』の吳明玉役に限ったことかも知れないが、大陸ドラマで見る他の女優たちとはちょっと違う、独特なボヘミアンな雰囲気がある。
また、吳明玉を演じているだけではなく、劇中アニメ『祥雲幻影錄』のナレーションも担当している。


葉美麗篇

第9話+第10話
脚本:沈洋(シェン・ヤン)


 葉美麗  本名 李桂蘭
職業:家政婦(元 外科医)
現在:誘拐の罪で清城刑務所に収監中
鐘美寶との関係:家政婦と雇い主


葉美麗は、家政婦でありながら、英語を話し、緊急医療の知識まである知的な女性。
摩天大樓の住人たちは、それを不思議に思いながらも、葉美麗の人柄を信頼しているため、彼女が誘拐犯とは信じない。

実は葉美麗の本名は李桂蘭で、かつては外科医。
十何年も前、勤務していた新龍縣の病院に、家庭内暴力で傷を負った鐘潔という女性が治療にやって来て、彼女の子供、美寶と阿俊と出逢う。

交流する内に家族のように親しくなり、4人で新天地で一からやり直そうとした矢先、鐘潔がDV夫に見付かってしまい、自殺。
異変を察した娘の美寶も、ちょっとしたスキに姿を消してしまったため、李桂蘭は止む無く弟の阿俊だけを連れ、新龍縣を離れ、以降ずっと女手一つで彼を育てることになる。
しかし、法律上、母親ではないため、後年になって誘拐の容疑でまさかの逮捕…。


摩天大樓

劉丹(リウ・ダン):葉美麗/李桂蘭

1972年、黑龍江省 哈爾賓出身、1994年に北京電影學院卒。

二文字の名前は同姓同名が多いから、混乱し易い。
大ヒットドラマ『還珠姫 プリンセスのつくりかた~還珠格格』に香妃役で出演したものの、2000年に交通事故に遭い、27歳の若さで亡くなった女優が、やはり“1972年 哈爾賓出身の劉丹”だが、別人。
女性だけではなく、劉愷威(ハウィック・ラウ)の父親でもある香港のベテラン俳優も劉丹(ラウ・ダン)。

『摩天大樓』の劉丹は、映像作品にもそこそこ出ているが、舞台に力を入れている実力派。

摩天大樓

日本との御縁も深く、平田オリザが演出する日中合同プロジェクト『下周村(かしゅうそん)』で新国立劇場の舞台に立ったり、2012年、中国の奨学金を受け来日し、能楽師 清水寛二に師事して、なんと、お能の舞台『天女 劉丹』でシテを務めたり。

まったく覚えていないのだが、テレビ朝日の『流転の王妃・最後の皇弟』にも溥儀の皇后 婉容(1906-1946)の役で出演していたようだ。
溥儀の側室 譚玉齡/他他拉氏(1920-1942)役で出演した伊東美咲が大根&中国語があまりにも凄まじかったため、他のお姫様たちの印象が吹っ飛んでしまっていたが、皇后役はちゃんと中国の実力派をキャスティングしていたのですね。


葉舒俊/顏俊

第11話+第12話
脚本:殳俏(シュー・チャオ)沈洋(シェン・ヤン)


 葉舒俊  本名:顏俊
職業:ピアニスト
生年:1993年
実母:鐘潔
養母:葉美麗(李桂欄)
実父:顏永原
鐘美寶との関係:異父弟


子供時代からピアノの才能を見せるが、親の理解はないし、そもそも家に経済的余裕なし。
そこで、夷安鎮立群小学校の美寶の同級生で、ピアノのレッスンが嫌いな薇薇に代わってピアノを弾き、953元稼いだり、海星照相館で<ノクターン>を弾いて店主の宋を驚かせ、彼の妻が遺したピアノを譲り受けるが、喜んだのも束の間、父親に見付かり、せっかくのピアノに火を付けられてしまう。

その後、一公演で最低でも百万元の収益を出す一流ピアニストに成長。
ところが、今から2年前、初めてのコンサートツアーの時、実父 顏永原が現れ、美寶の写真をバラ撒くと脅しながら、金の無心を開始。

そして一年前、さらにエスカレートした顏永原が「金を渡さなければ美寶を殺す」と脅迫。
美寶から、ただの脅しだから無視するよう忠告されるが、実際に美寶が殺されてしまい、阿俊は大ショック…。

摩天大樓

ちなみに、こちら、ピアニスト葉舒俊のコンサートチケット。
こんな小道具まで作っているとは。(しかも、ちゃんと“それっぽい”デザイン。)


摩天大樓

曹恩齊(ツァオ・エンチー):葉舒俊/顏俊

1995年、北京出身、中央音樂學院 鋼琴(ピアノ)系 卒。

摩天大樓

そう、ピアニスト葉舒俊を演じる曹恩齊自身がピアノの名手。
子供の頃から毎日8時間ピアノを弾き続け、あの郎朗(ラン・ラン)を輩出した中央音樂學院へ進学し、郎朗と同じ先生に師事し、いくつかのコンクールで好成績を獲得。
しかも、スラリと185センチの長身で、大学一のイケメンとの誉れも高く、色んなイベント等にお呼ばれ。
まだ在学中の2015年、芸能事務所からお誘いが来ると、元々映画鑑賞が好きだった彼は興味を示し、契約。
俳優になるべく、半年のレッスンを受けるが、訳あって解約。
幸い、その後、別の事務所に所属することとなり、2017年、コメディ映画『我是你媽~I Am Your Mom』に出演し、正式に芸能界デビュー。

仮にピアノの腕で郎朗より劣っても、このルックスなら、ピアニストとしてデビューでき、マダムに人気のピアノ王子になっていたかも知れないですね~。


顏永原篇

第13話+第14話
脚本:沈洋(シェン・ヤン)殳俏(シュー・チャオ)


 顏永原  職業:鵬洋電器有限公司 経営
妻:鐘潔
息子:顏俊(葉舒俊)
鐘美寶との関係:継父


華商集団を取り仕切る大物女性実業家 汪紅の運転手をしていた時、彼女の脱税を隠す見返りに譲ってもらった小さな会社 鵬洋電器有限公司を経営。

クラブで働く鐘潔に惚れ込み、彼女が子持ちであることを承知の上で結婚。
ところが、望んでいた穏やかな家庭生活は続かず、わがままで金遣いの荒い鐘潔に振り回され、さらに経営する会社の資金繰りにも行き詰ってしまう。
そんな時、鐘潔から勧めで、違法であると知りながら、彼女の知り合いの香港人が扱う密輸品に手を出し、その香港人が失踪して、自分が逮捕…。

…というのは、顏永原自身の供述。
息子の葉舒俊(顏俊)や、葉舒俊の養母 葉美麗が言うような、酒癖が悪いDV夫とはまるで異なる話。

警察の鐘敬國と楊蕊森は、顏永原がPUA(ピックアップアーティスト)の理論で女性を支配していたことを疑い、彼をかつて運転手として雇っていた女性大物実業家 汪紅に接触。
案の定、顏永原の話とは真逆の証言を得る。

一方その頃、顏永原自身は、ピアニストとして有名になった息子に会うため、家族の問題を扱う雙和衛視の人気番組『回到愛身邊(愛がそばに戻る)』に出演し、注目を浴びることになるが…。


摩天大樓

焦剛(ジャオ・ガン):顏永原

山東省出身。
(年齢は非公開だが、逆算すると、恐らく1966~1968年辺りの生まれ。)
『摩天大樓』では、下流のDV夫を演じ、息子にも「ピアノなんか何の役にも立たねぇー」みたいな事をホザいているけれど、焦剛ご本人はおピアノをお弾きあそばす。

変わった経歴の持ち主で、大学はまず山東師範大學でおピアノを履修。
卒業後は、山東濱州教育學院で芸術学部の教師に。
6年後、北京に出て、当時中央戲劇學院に新設されたばかりのミュージカル学科に入学。
ところが、その頃、中国では、まだミュージカルが盛んではなかったため、卒業しても活躍の場がなく、生活のため会社員をやっていた時、先生からの推薦で、日本の劇団四季に入団。
『マンマ・ミーア!』『Contact』の舞台に立ったそう。

以前、故 浅利慶太が「中国人は身体能力が高い」と言っていたけれど、優秀な人材を確保するために、劇団四季は中国の名門校とコネクションをもっているのかも知れませんね。

摩天大樓

焦剛さま、フツーに素敵。
スタイルが良くて、舞台映えしそう。

摩天大樓

飛べるし。
さすがはミュージカル俳優。

陳正道監督作品は、ドラマ『摩天大樓』より前に、映画『記憶の中の殺人者』(2017年)に出演。
2021年の今年は、『摩天大樓』の共演者 呂聿來が監督する映画『掃黑·決戰』の公開が控えている。

俳優業のみならず、舞台監督もしており、西安 華清宮の中で毎日上演されている『1212西安事變~Xi'an Incident』を手掛ける裏方の一人が、やはり焦剛。
これは、外国人観光客でもお手軽に観られる舞台。


鐘美寶篇

第15話+第16話
脚本:任鵬(レン・ポン)沈洋(シェン・ヤン)


 鐘美寶  住まい:摩天大樓 C棟 2003号室
職業:摩天大樓階下にあるカフェを経営
出身:雲南省 夷安鎮
最後:2019年10月20日に遺体で発見、享年29歳
母:鐘潔
異父弟:顏俊(葉舒俊)


母 鐘潔の自殺後、寄宿学校 楊永義青少年德才培育學院に入学。
厳格な学校での暗く辛い日々が始まるが、二人の同級生、李茉莉、丁小玲との出逢に救われ、彼女たちとは生涯助け合う大親友となる(!)。

この鐘美寶篇は、まとめの章
14話までに張られた伏線が、この最後の2話でどんどん回収され、結末に進んでいく。


摩天大樓

楊穎(アンジェラベイビー):鐘美寶

1989年、上海出身。
父方の祖父がドイツ人のクオーター。
13歳の時、親と一緒に香港に移住し、翌2003年、14歳の時、モデルとしてデビュー。
モデルとしては三流でも、途絶えることのなお直し疑惑で、日本でも結構早い時期から中華芸能マニアの間で知られるように。

摩天大樓

2009年には、ヤバイもん好きキワモノ師 AVEX 松浦勝人が日本地区のマネージメント契約を結んだため、当時は、ギャル系ファッション誌<S Cawaii>の他、東京ガールズコレクションに参加したり、レミオロメンのMVに出演するなど、日本のお仕事もぼちぼちやっていた。

その後、2012年、大陸芸能大手 華誼兄弟と契約すると、女優業の比重が増し、さらに2015年、大物俳優 黃曉明(ホアン・シャオミン)と上海展覽中心で豪華挙式を開催。

摩天大樓

日本ならちょっとした国家行事レベルのお式であった。
お嫁サマになったベイベーは、2017年順調にBabyを出産。
常に話題を振りまき、高額ギャラを稼ぐ超一流芸能人に昇格!

…が、その割りには、“代表作”と呼べる主演作がなく、演技力も問題視されがち。
私がこの『摩天大樓』に特別期待しなかったのも、べいべー主演作であることが大きい。

でも、実際にドラマを観たら、べいべーは特別出演という扱いで、初っ端ですぐにお亡くなりに。
(もっとも、彼女の死を巡る物語であるため、死亡後も、回想でちょくちょく登場するが。)

現地では、『摩天大樓』での彼女の演技について、①気にならなかった ②進歩した ③このドラマ唯一の汚点が楊穎、…と寛容派から断罪派まで幅があるけれど、相変わらず手放しの絶賛はほぼ見当たらない。

私自身は、演技力に関しては、現地で言われているほど悲惨だとは思わない。
それより、お顔。
口元が固まり過ぎで、コワイ…。
キラキラのラブ史劇なら、アニメやゲームのキャラクターのようなナチュラル感に乏しいチャイボーグなお顔の俳優も作風に馴染むが、本格的な作品だと浮くし、画が安っぽくなってしまう。
『摩天大樓』の場合、各エピソードの中核的人物に、人気より実力を重視した俳優を多く起用しているので、客寄せパンダ的にメジャーなべいべー投入は仕方が無かったのかなぁとも思うけれど。





なお、鐘美寶役は、年齢に応じ、楊穎を含め4人の女優が演じている。

小さい方から順に、陳羽汐(チェン・ユーシー)王聖迪(ワン・ションディー)張煜雯(ジャン・ユーウェン)、そして楊穎
張煜雯は綺麗な女の子だけれど、さっぱりした顔で、ベイベーの少女時代にあまり見えなかった。

摩天大樓

王聖迪は、これの前に観た『バッド・キッズ 隠秘之罪~隐秘的角落』の普普役が本当に素晴らしかった!
『摩天大樓』では、『バッド・キッズ』程の出番はないけれど、この子、可愛い。

間も無く2021年5月に公開を控えている陳正道監督新作映画『秘密訪客~Home Sweet Home』にも、その『バッド・キッズ』で共演した榮梓杉(ロン・ズーシャン)と一緒に出演。


キャスト その①:警察

摩天大樓

郭濤(グォ・タオ):鐘敬國

雙和市公安局曼城分局刑事偵査支隊のベテラン刑事で、鐘美寶案件を担当。
過去にセクハラをしたと署内で噂される。
曉曉という難しいお年頃の娘あり。
(実は、相棒だった周磊の娘を引き取って養育。)


主演の一人は、キャスト陣の中で一番の大物俳優 郭濤
郭濤は、1967年、陝西省 西安出身、中央戲劇學院卒。

摩天大樓

陳正道監督は、過去のミステリー映画2作品、『催眠大師~The Great Hypnotist』では徐崢(シュー・ジェン)『記憶の中の殺人者』では黃渤(ホアン・ボー)と、コメディに定評のあるおっさん俳優を主演に起用。

『摩天大樓』への郭濤の起用も、その流れを感じる。
マサミチは、コメディの上手い中年俳優が、ミステリー作品で、コミカルではない演技をするのが見たいのでしょう。

摩天大樓

徐崢、黃渤に続き、郭濤が起用されたことで、大ヒット映画『クレイジー・ストーン 翡翠狂騒曲』(2006年)出演者の内3人が、陳正道監督ミステリー作品の主演となった。





摩天大樓

楊子姍(ヤン・ズーシャン):楊蕊森

雙和市公安局曼城分局刑事偵査支隊に勤務する警部補。
鐘敬國の部下で、共に鐘美寶案件を担当。

仕事熱心で優秀だが、天海祐希や米倉涼子のような「私、デキるわよ」系ではなく、洒落っ気が無く、眼鏡を掛けた真面目っ子。
共に捜査に当たっているベテラン鐘敬國を“師傅(師匠)”と呼んではいるけれど、ひたすら低姿勢というわけではなく、言いにくい事を本人に向って案外さらりと言ってしまう天然なのかシッカリ者なのか分かりにくい所あり。


楊子姍は、1986年、江蘇省 南京出身、南京藝術學院 音樂表演系 卒。
出世作は、女優 趙薇(ヴィッキー・チャオ)の監督デビュー作『So Young~過ぎ去りし青春に捧ぐ』(2013年)。

摩天大樓

楊子姍が扮する主人公 鄭微は、日本人の私からすると、無駄に勝ち気でウザい女。
ところが、中国では大ウケで、演じた楊子姍も大人気に。
(私が「うざっ…」と感じた女性キャラが、中華圏で「ハツラツとしていて可愛い!」とウケることは結構ある。)

その後またまたヒットした主演映画が、韓国映画『怪しい彼女』(2014年)の中国版で、陳正道監督による『20歳よ、もう一度』(2015年)。

摩天大樓

その映画で、韓国版の沈恩敬(シム・ウンギョン)、日本版の多部未華子に当たる役を演じているのが楊子姍。
この三者比較では、私は、楊子姍が一番良かった。

この『20歳よ、もう一度』以降、楊子姍はもはや“マサミチ組”の一員で、陳正道監督作品にしばしば登場。
しかも、2015年には、『摩天大樓』のもう一人の監督である吳中天と結婚。

摩天大樓

綺麗な夫婦。
マサミチがプロデュースした夫 吳中天の長編監督処女作『天亮之前』の主演女優を務めたのも楊子姍。
みんな、“お仲間”という感じなのでしょう。


日本では、wowowで『摩天大樓』放送中、BS11でもう一本の楊子姗主演ドラマ『愛される花~原來你還在這裡』も放送していたのだが、そちらで演じている蘇韻錦は、なんか暗くてパッとしない役であった。
『摩天大樓』の楊蕊森は、『So Young』のように鬱陶しくなく、かと言って『愛される花』ほど暗くなく、ごくごく普通で程良い感じ。
今までに見た楊子姍出演作の中で、この役が一番好きかも。

あと、『摩天大樓』で見て今回初めて感じたのだけれど、眼鏡を掛けた楊子姍は、眼鏡を掛けた浜辺美波にそっくり。

摩天大樓

両者とも正統派のナチュラルビューティで、それが面白みに欠け、印象に残りにくい要因だとも感じるけれど。


キャスト その②:その他

摩天大樓

倪虹潔(ニー・ホンジエ):鐘潔

鐘美寶と顏俊の母。
鐘美寶を産んだのは17歳の時。
顏俊の父親である顏永原からDVを受け続け、逃避にも失敗し、遂には自ら命を絶つ…。


倪虹潔は、1978年、江蘇省出身の女優さん。
日本に入って来ている出演作は決して多くはないのに、ここ最近、『摩天大樓』以外にも、ドラマ『私だけのスーパースター Mr.Fighting~加油,你是最棒的』と映画『THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女』(2018年)が上陸し、いずれもなかなかの良作であった。

しかも、倪虹潔が演じている役は、それら3作品とも恋愛体質の傾向
倪虹潔は、ダメンズに尽くした挙句こっぴどくフラれるとか、ちょっぴりお馬鹿で可愛いオンナ、…みたいな役がとても上手い。

『摩天大樓』では、眉毛の上でぱっつり切った前髪のボブヘアもお似合いでキュート。
私、普段は、目と目の間が近い女性の顔があまり好きではないのだけれど、作品の中で見る倪虹潔は、憎めない魅力がある。





摩天大樓

張柏嘉(ジャン・バイジア):李茉莉

建築家 林大森の妻。
父親は著名な教授 李敬深。
元々は自分自身も建築をやっており、林大森より優秀であったが、結婚して専業主婦に。

自分より優秀でお嬢様育ちの李茉莉と逆玉の輿婚をした林大森は、どうやら婿養子のような気詰まりがあるようで、幼馴染みの鐘美寶と再会すると、不倫関係になり、彼女との時間に安らぎを覚える。


李茉莉役の張柏嘉は、1993年、廣西省 壯族自治區 南寧 出身、上海戲劇學院卒の女優さん。
陳正道&許肇任監督作品は、これの前にすでに『千年のシンデレラ』に出演。

摩天大樓

演じていたのは、主人公の賀蘭靜霆を想い続ける狐族の塗山千花
主演女優の宋茜(ソン・チェン/ビクトリア)より綺麗で演技も上手かった。

『摩天大樓』だと既婚者役なので、『千年のシンデレラ』より大人っぽく、勝ち気な雰囲気も。
水原希子を格段綺麗にしたような、ちょっとクセのある美人で、好きな顔。





摩天大樓

馬小媛(マー・シャオユエン):丁小玲

摩天大樓 C棟 2307号室の住人。
不動産仲介業者 林夢宇の愛人。

林夢宇が持っている摩天大樓の合鍵を使い、二人で他人の部屋にこっそり入り、コスプレごっこをする等、林夢宇とはライトな関係をエンジョイ。

摩天大樓

丁小玲のコスプレも、ドラマの見所の一つでしょうか。

丁小玲は、林夢宇の変態っぷりを面白可笑しく見せるためのキャラで、林夢宇からのプロポーズをお断りしたら、あとはもう用無しかと思いきや、終盤で意外にも、鐘美寶にとっての大切な親友であることが判明。


馬小媛は、1993年、江蘇省 南京出身、同地の三江學院 影視表演專業本科 卒。
かつて、ミス・ツーリズム・インターナショナルの中国地区大会で3位になったこともあるそうで、スタイル抜群。

陳正道&許肇任監督作品は、『千年のシンデレラ』からの続投。

摩天大樓

前出の張柏嘉より出番は少なかったが、ガツガツとネタを掴もうとする編集者 汪萱という役で出演。
ハングリーな女豹系の役に起用されがち?

張柏嘉よりもっとずっとクセの強い顔立ちで、スタイルもいいから、欧米ウケ良さそう。
個性的で、私は好き。





摩天大樓

金世佳(ジン・シージア):吳東

楊蕊森の恋人。
仕事のことで頭がいっぱいの楊蕊森が、デートに大幅遅刻しても、すっぽかしても、心の中で傷付きながら、顔で笑って、彼女を許す、超イイ人!

「女友達たちからは、あんなイイ人いるわけない、非現実的だと言われたけれど、この吳東は、『摩天大樓』の3人の監督の内の一人を参考に創ったキャラだから」と陳正道監督。
どうやら吳東のモデルは、楊蕊森役の楊子姍の夫である吳中天ということらしい。
インタヴュでその事をふられた楊子姍は笑うだけで肯定はしていないけれど、どうやら吳中天は相当イイ人のようだ。


吳東はドラマにほんのちょっとしか出てこない人物だけれど、私は大好きなんですよねぇ~。
そもそも、その吳東を演じている金世佳が好き。
身長189センチでもっさり控えめな顔立ちの金世佳は、大柄地味男子好きにはタマラナイものがある。

日本に入って来ている出演作が少ないのため、知名度イマイチだが、上海戲劇學院卒業後、日本に留学し、日本語が喋れることから、2019年末、NHKのスペシャルドラマ『ストレンジャー~上海の芥川龍之介』に出演したから、知らず知らずの内に金世佳を見ている人は結構いるはず。

STRANGER 上海の芥川龍之介

共産党設立メンバーの一人、李人傑/李漢俊(1890-1927)の役で出演していたのが金世佳。


STRANGER 上海の芥川龍之介:金世佳

自信の微博の背景が、まさかの田村正和づくしという変なところも含めて、好き。


お衣装

スタイリングを担当しているのは、やはり陳正道監督絡みのお仕事が多い、台湾出身の葉竹真(ジュエル・イエ)
『摩天大樓』は、都市を舞台にした現代劇なので、お衣装に特別豪華な物や変わった物はない。


気になったのは、劇中登場する初めて名前を聞くブランド。
それが出てくるのは、建築家 林大森のエピソード。

摩天大樓

新しいお洋服を買ってきた妻 李茉莉に「これ、どこの?シャネル?ルイヴィトン?」と取り敢えず知っている名前を挙げた林大森に対し、妻の李茉莉は、あなたファッションの事なにも知らないのねと言わんばかりに、「シャネルやルイヴィトンは愛人に贈る服。私のこれは、Gazeau(ガズー)!」

こうしてファッションを学んだ林大森は、よせばいいのに、妻とお揃いのそのガズーを早速買って、愛人 美寶にプレゼントしちゃったから、妻と愛人が同じ服で鉢合わせして窮地に立たせれる。


その“ガズー”、聞いたことないと思ったら、やはり架空のブランドであった。

摩天大樓

ストライプのニットのあのワンピースは、実際には、トリーバーチ、2020春夏コレクションの物。





もう一つのプレゼント、ネックレスのブランド“ボシューン”(笑)も架空のジュエラー。

摩天大樓

実際には、ブシュロン
具体的には、ブシュロン Serpent Bohème(セルパンボエム)シリーズの18Kホワイトゴールドのネックレス。


テーマ曲

『摩天大樓』のテーマ曲は珍しく洋モノ。

Philip Hallounというデンマークの男性シンガーソングライターが作詞作曲し、Aila Gatoという女性シンガーとデュエットした<You & I>

毎話最後にこれが流れると、物語の余韻に浸れる、とても『摩天大樓』の雰囲気に合った曲。
この曲に関して検索すると、やたら中国語の情報ばかり出てくるし、プロデューサーが中国人、権利を持っているのも中国の会社みたいなので、世界的に知られる曲というより、『摩天大樓』のため、もしくは中国市場向けに作られリリースされた曲なのかも。





なお、最終話だけはエンディング曲が違い、フランツ・リスト作曲のピアノ曲<愛の夢 Liebesträume>が流れる。



日本のお仕事

邦題

私は、中華作品の場合、基本的に、邦題は原題のままにすべし、サブタイトルも不要と思っているのだが、このドラマの場合、そのまま『摩天大楼』にしていたら、もしかしてネットの検索で摩天楼(高層建築)関連の情報があれこれ引っ掛かり、紛らわしくなっていたかも知れませんね。

そこで『摩天楼のモンタージュ』
最初は、良いとも悪いとも何とも思っていなかったけれど、実際にドラマを観たら、作品の構成を上手く捉えた「なるほど」と納得できる邦題であった。


エンドクレジット

エンドクレジットも消さずに全て流してくれており、こちらも合格。
お陰で、詳細な情報を得ることができました。

(『摩天大樓』はエンディングがただの黒背景なので、消せなかったという事情があったのかも知れない。もしそうなら、これから中国のドラマのエンディングは、日本の配給会社にクレジットを隠蔽されないよう、全て黒背景にして欲しい。)


人名の表記

ここまで全て日本のお仕事を高く評価したが、やはりパーフェクトとはいかなかった。
日本語字幕で、人名を片仮名で表記したことで、大・減・点! 日本のお仕事に喝っ!

登場人物が、ワン(王)、チェン(陳)、リン(林)の3人だけの作品なら、片仮名表記にも耐え得るであろう。
しかし、『摩天大樓』ほど登場人物が多い群像劇で、しかもミステリーなのに、ジョン(鐘)、ジュン(俊)、シェン(沈)、イエ(葉)、イエン(厳)、リー(李)、リン(林)…と大量の片仮名を羅列し、わざわざ紛らわしくするなんて、有り得ないから!

名前の表記は、例え現代劇でも、“漢字+ルビ”にすべし、絶対に…!

日本はここ数年で中国の時代劇を観る人が激増し、漢字で表記された名前で問題が起きないことは、すでに実証済み。
昔の人や政治家なら漢字で、現代一般人は片仮名なんてナンセンス。

それにね、主人公の刑事“鐘(Zhong)が”“ジョン刑事”とか、変だし。
普通の日本人が“ジョン刑事”と見たら、西洋人の“John刑事”を想像する。

摩天大樓

字幕の中で“ジョン刑事”と見る度に、私の脳裏に『刑事ジョン・ブック』のハリソン・フォードが現れ、気が散った。


以前は、中国語作品でも、英語翻訳者が英語のテキストから訳すことが多かったから、名前の片仮名表記も致し方なかった。
現在でも、英語翻訳者が翻訳した中国語作品はあるけれど、字幕を見れば、大抵バレる。
ましてや、機械による自動翻訳などお話にならない。

人名をきちんと“漢字+ルビ”で表記することは、「うちはちゃんとした中国語翻訳者に訳させています」と配給会社が強いコダワリがあることを示せ、英語翻訳者を使っているコダワリのない会社や、大量消費型配信作品との差別化を計ることにも繋がります。





2話完結の短篇を繋げたオムニバス感覚でサクサク観進めた。
ラストの2話では、それまでの14話、7つのエピソードの中に張られた伏線をガンガン回収。
と同時に、勧善懲悪とまではいかないが、“公平な法律のもとでは、悪人が罪に問われず、善人が泣き寝入りするしかない”という何ともモヤッとする理不尽を解消して、事件は幕引きするから、後味が案外軽やか。

謎解きミステリーとして以上に、一見普通の都市生活者である鐘美寶をはじめとする登場人物たちの、外からは分かりにくい素の顔や過去を紐解く人間ドラマとしての側面が、私にとっては面白かったのかも。

そこら辺の面白さは、陳雪による原作が、“摩天大樓という高層住宅=社会に生きる人々を描く群像劇”という意識で書かれた小説であるからかも知れない。
また、そのような小説を、ミステリー仕立てにし、広い層が観易い娯楽ドラマに作り直している手腕も巧いと感じる。

林志堅(チャーリー・ラム)が撮影を担当した映像も良し。
林志堅は、私が好きな作品をいっぱい撮っている香港のカメラマン。
陳正道監督御用達というだけではなく、『イザベラ』(2006年)など彭浩翔(パン・ホーチョン)監督作品で知られる。


あっ、念のため確認ですが、古い写真に写っている父親から暴行を受けた白いレースの服を着た少女は、弟の阿俊だった、という認識で合っています?

あともう一つ、どうでもいい事で気になったのは、鐘敬國&楊蕊森が勤務する警察の外壁に書かれた“双和市公安局曼城分局刑事侦察支队”の下に記された英文表記が“Manche Criminal Police”になっていたこと。
“Mancheng(曼城)”の最後の“ng”が落ちているのですが…。
中国人がわんさかいるドラマ制作の現場で、誰も気付かないわけがないから、敢えて“ng”を入れなかったことに何か意味があるのではないかと勘繰ってしまう…。


私の個人的な好みでは、wowowがこれの前に放送した『バッド・キッズ 隠秘之罪~隐秘的角落』の方が格段上。
でも、普段、ラブ史劇や偶像劇しか観ない人々は、『バッド・キッズ』を重く感じる可能性がある。
そういう人々にもお薦めなのが、こちらの『摩天大樓』。
『バッド・キッズ』は大傑作だが、より広い層が気軽に楽しめるドラマは『摩天大樓』の方だと思う。


『摩天大樓』を観たら、間も無く中国で公開される『秘密訪客~Home Sweet Home』も、久々に日本に入って来る陳正道監督の映画作品になりそうな気がしてきたけれど、どうでしょう。

摩天大樓

『秘密訪客』は、監督が『花蓮の夏』陳正道(レスト・チェン)、脚本担当が『摩天大樓』の殳俏(シュー・チャオ)、大人のキャストが香港明星 郭富城(アーロン・クォック)と映画ファンからの支持が高い段奕宏(ドアン・イーホン)、子供のキャストが『バッド・キッズ』の榮梓杉(ロン・ズーシャン)王聖迪(ワン・ションディー)や、岩井俊二監督の『チィファの手紙』にも出た張子楓(チャン・ズーフォン)と、今の日本で映画好き、ドラマ好きのどちらもが反応しそうな顔ぶれが揃っている。
どうなのコレ、面白いのかしら…?

追記映画『秘密訪客』、現地中国でイマイチだった模様。)


そしてwowowでは、明日、2021年4月29日(木曜)から『ロング・ナイト 沈黙的真相~沉默的真相』
これは楽しみ。
(でもね、最近のwowowは、他の中華ドラマが壊滅的…。『恋した彼女は宇宙人~外星女生柴小七なんてホームドラマチャンネルでやりそうな偶像劇は、余分にお金を取る局がわざわざ放送するドラマじゃないから…。しかも、主演女優の名前の誤表記が正されていない。)


映画『ゴッドスピード』

ゴッドスピード

【2016年/台湾/111min.】
台北。
納豆は、新聞広告で見付けた運び屋の仕事を始めたばかりの青年。
電話で出される細かい指示は多少面倒でも、小包を南部へ届けるだけの単純な作業は、これまでなかなか一つの仕事が続かなかった納豆の性にも結構合っている。
その日の早朝、荷物を受け取り、届け先の南部へ早速出発しようとしたところ、初老のタクシー運転手からの客引きにあう。
「まけるよ、友達価格だ。全部込みで9450元」
しつこく食い下がってくる運転手に根負けし、そのタクシーに乗り込む納豆。
許という姓のこの運転手は、香港出身。
台湾人女性と結婚し、台湾で暮らすようになって、もう二十年以上になるという。
そんなちょっと鬱陶しい世間話を聞かされながらも、タクシーは順調に南部へ向かっているかのように思えたが…。


第29回東京国際映画祭、ワールド・フォーカス部門で上映された、台湾の鍾孟宏(チョン・モンホン)監督、『失魂』以来3年ぶりの長編監督作品第4弾を鑑賞。

今年の東京国際映画祭で最も観たかった作品のひとつ。
鍾孟宏監督作品は、これ以前の3本全てが日本公開に至っていないので、映画祭での上映は貴重。
それにこれ、来週末、2016年11月26日に発表される第53回金馬獎では、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞等々最多の8部門でノミネートされている話題作でもある。

今回、東京国際映画祭では、上映終了後に監督&キャストによるQ&Aを実施。
その内容については、こちらを参照。





物語は簡単に言ってしまうと、薬の運び屋をする青年・納豆と、香港出身のタクシー運転手・老許が、台北から南部を目指す珍道中を描いたロード・ムービィ

納豆は、ヤクの運び屋と言っても、チンピラ風情ではない。
無気力に生きている、何をやっても駄目な冴えない青年なのだけれど、指示される通りに物を運べば良いという単純作業は性に合い、中身が何なのかも知らず、図らずも“ヤクの運び屋”になっている。

そんな納豆が、また新たなブツを南部へ運ぶために乗り込んだタクシーの運転手・老許は、香港出身。
台湾人女性と結婚し、台湾で暮らし、早二十年以上。稼ぎも良くなければ、北京語は相変わらず苦手、強い女房に逆らえもせず、日々惰性で生きている初老の男。

このように、決してイケイケとは言えない人生を送っている二人のしがない男性が、タクシーという一つの空間に乗り込み、運命共同体となり、事件に巻き込まれていく。
本来、北と南を往復すれば良いだけの単純な行程は早々につまずき、波瀾のドライヴに。


原題の『一路順風』は、フランス語の“Bon Voyage!(ボン・ヴォヤージュ)”のように、旅立つ人に送る祝福の言葉。
事実、鍾孟宏監督は、当初この作品の外国語タイトルを『Bon Voyage』にしようと考えていたらしい。
日本人はあまりそういう表現は使わないけれど、敢えて日本語で言うなら“よい旅を!”という感じか。
結局、『Bon Voyage』というタイトルは、平凡だという知人からの指摘で却下となり、最終的に鍾孟宏監督が決めたのは『God Speed』。この英語も、意味は同じ。

実際に本作品を観ると、『一路順風』が皮肉に聞こえる物語。
“一路順風”という具合に進めないドライヴと、二人の男の人生を重ね、良い時も悪い時も有るよね、それでも前を向いて進もうよ、「一路順風!」と背中を押しているかのよう。




台湾南部を目指してドライヴする二人を演じているのは…

ゴッドスピード

香港出身のタクシー運転手、“老許”こと許英文に許冠文(マイケル・ホイ)
ヤクの運び屋をする納豆に納豆(ナードゥ)


皆さま、香港の喜劇王、かの『Mr.Boo!』の許冠文ですよ!

ゴッドスピード

1942年生まれ、もう74歳におなりになったそう。
別に『Mr.Boo!』以来、何十年も許冠文を見ていなかったわけではない。
最後に映画で見たのは、確か成龍(ジャッキー・チェン)主演作『プロジェクトBB』(2006年)。
あぁ、それでも、もう十年前なのか…。
そんなお久し振りの許冠文が、なぜか鍾孟宏監督作品に出ているという異色の組み合わせだけでも、本作品にはソソられる。

鍾孟宏監督作品なので、許冠文も分かり易い笑いは提供していない。
異郷で人生の黄昏時を迎えたタクシー運転手・老許は、ぜんぜん陽気な雰囲気ではなく、ちょっとした会話の中に滲み出る悲哀に充ちたおかしみに、たまにクスッと笑わせてもらう感じ。
クスッと笑ってしまった後、「あっ、笑っちゃってゴメンなさい…」と罪悪感さえ湧くことも。
70を過ぎた喜劇王が辿り着いた肩の力が抜けた演技は、得も言われぬ味わいがあって良いのです。

劇中、“老許”と呼ばれているこのタクシー運転手だが、運転席前方に貼られたプレートで、彼のフルネームが“許英傑”であることを確認。
これ、もしかして、許氏三兄弟(ホイ3兄弟)として一緒に活躍した弟、許冠英(リッキー・ホイ)と許冠傑(サミュエル・ホイ)から一字ずつもらって命名したお遊びなのでは…?


司会者、コメディアンとして台湾で活躍する納豆は、実は鍾孟宏監督作品4作全てに出演している“鍾孟宏監督御用俳優”。(…と言っても、これまでは小さな役で、本作でついにメインキャストに大昇格!)
日本で公開されている出演作だと、張榮吉(チャン・ロンジー)監督の『光にふれる』(2012年)を思い出す。
あの中で、ダンサー志望の主人公がバイトするお店の店長さんを演じているのが納豆。
納豆にはどうしても陽気なイメージがあるので、今回、自身の名前そのままで演じている納豆という青年も、ドジで間抜けな運び屋を想像していたら、案外暗い雰囲気。
老許とは、タクシーの運転手と客という立場もあり、態度がやや横柄なのも、彼にしては意外性あり。

また、異郷で女房の尻に敷かれているという生活感がある老許と違い、この納豆からは家族や生活という背景が、なかなか見えてこない。
後々、父親が居ないということが判明。
自分を縛る家族などには興味が無さそうに見え、その父の写真をいつも持ち歩いている納豆…。
長身でハンサムな父は憧れであり、自慢なのだろうが、あまりにも納豆と似ていないため、写真を見た老許が一言、「子供の頃、病気でもしたのか?」。

物語が終わり、クロージングクレジットをボーッと眺めていたら、写真の中のこの長身でハンサムな納豆の父親は、なんと金士傑(ジン・シージエ)であった…!
一瞬映るあの写真だけで、金士傑だって気付く人いる…?!
見付けたらラッキーな宝探しのような、なんとも手の込んだカメオ出演。


他の出演者もザッと見ておく。

ゴッドスピード

裏社会の親分・大寶に戴立忍(レオン・ダイ)、大寶の子分・小吳に吳中天(マット・ウー)、大寶と付き合いの長い、同じく裏社会の親分・庹哥に庹宗華(トゥオ・ツォンホア)、老許の台湾人の女房に林美秀(リン・メイシュウ)等々…。


戴立忍扮する大寶は、ヤクザ者にもかかわらず、白いシャツを着て、一見ビジネスマン。
知的で冷静、一般常識の通じる人に見えるし、実際一度信頼関係を築いた相手には誠実に接するが、逆に自分を裏切るような真似をした人間は、容赦なく粛清!
見た目とのギャップで、余計に凄味を感じる。
ヘルメットを被せたまま、ノコギリでギコギコ頭部切断の刑には、ゾゾッ…!


まぁ、ノコギリでギコギコを実際にやるのは、大寶じゃなくて、部下の小吳なのだけれど。
小吳に扮する吳中天も、優しい顔立ちの二枚目だから、こういう役を演じると、何を考えているのか読みにくい薄気味悪さが漂う。
吳中天は、若い頃からアイドルもできそうなルックスだったのに、そこに捕らわれない活動をしていた点も、かなり私の好みに合っていた。
あぁ、なのに、なのに、私生活では、昨年、『20歳よ、もう一度』(2015年)などで知られる大陸女優、楊子姍(ヤン・ズーシャン)のお婿サマになってしまわれた…。残念…!


同じヤクザ者でも、ビジネスマン風の大寶と反対で、ヨレたランニングシャツから刺青が覗く台湾の昔ながらのヤクザらしいヤクザなのが、庹宗華扮する庹哥。
見た目はあからさまなヤーさんでも、裏切り者を見抜けなかったのだから、大寶よりユルいし、普通のオジちゃんっぽい部分が結構ある。
ソファーにかかっているビニールを買った時からずっと付けっ放しというエピソードが、特におかしかった。
ケチなのだか几帳面なのだかよく分からないこういう人、居る、居る。


出演シーンはごく僅かだが、老許の妻役で、林美秀が出てきた時には、思わずフッと笑みがこぼれた。
林美秀は、陽気で気さくなオバちゃん役が定番になっているけれど、こういう夫を尻に敷くちょっとふてぶてしい中年女性も上手い。


他には、鍾孟宏監督の前作『失魂』に医師役でカメオ出演している陳玉勳(チェン・ユーシュン)監督が…

ゴッドスピード

本作でもまたまた医師役でカメオ出演。但し、今回は獣医(…人間の治療をしちゃっているけれど)。
産婦人科医とか美容整形医とか、担当の科を変え、この先も鍾孟宏監督作品に出てくるだろうか…?


あっ、あと、タイの極道の役で、ヴィタヤ・パンスリンガムもちょこっと出ていた。
ヴィタヤ・パンスリンガムは、この数日前に観た林超賢(ダンテ・ラム)監督作品『メコン大作戦』にも出演。中華電影界で、“タイの強面”というと、彼になりつつあるのでしょうか。





久し振りに好みのタイプの台湾映画を観た気がした。
“チビポチャの薬の運び屋とおじちゃん運転手が、タクシーで南下する途中、ヤクザ者の抗争に巻き込まれ、右往左往するロード・ムーヴィ”などと物語をザックリ説明されると、よく有りがちなエンターテインメント作品を想像する。
実際、本作品で描いている事は、基本的にその“有りがちなエンターテインメント作品”となんら変わりはないのだが、ブラックな笑いとか、残虐なシーンとか、人間の悲哀とか、ちょっとした味付けの差で、ちゃんと独特の“鍾孟宏テイスト”に仕上がっている点が、鍾孟宏監督のスゴイ所であり、私が気に入った理由だと思う。

ゴッドスピード

あと、綺麗すぎない“ありのままの台湾”を捉えた映像も良いし、キャストも魅力的。


Q&Aの時、会場のあるお客さんが、「老許と納豆の今後に何か起きそうな不穏な空気を感じる」といった感想を述べていたけれど、私は、納豆が老許のお誕生日に小籠包を買ってきてお祝いするラストシーンを、単純にハッピー・エンディングと受け止め、気分ホッコリ。
それまでには、血生臭いシーンや、重苦しいシーンも多々有ったけれど、最後に、あぁ、良い映画観たわぁ~、と気持ちを晴れやかにしてくれる幕締めであった。


余談になるが、作中、老許が、自分の稼ぎを「一日1200元」というシーンがある。
現在のレートで、約4千円/一日。
恐らく、台湾のタクシー運転手に実際にリサーチして、台詞にした額だと想像する。
台湾の物価から考えて、どうなのでしょう、この額。
台湾はタクシー料金が安いから、日本人旅行者には有り難いけれど、運転手の生活はキツそう…。


まぁ、とにかく、来週末発表の金馬獎の行方を見守りたい。
ノミネートされている8部門の内、どれくらいのトロフィを手にできるでしょうか。
結果によっては、日本で初めて一般劇場公開される鍾孟宏監督作品になるかも…?


第29回東京国際映画祭『ゴッドスピード』上映終了後に行われた鍾孟宏監督と納豆によるQ&Aについては、こちらから。
当初、この日のQ&Aは、鍾孟宏監督のみで行われる予定であったが、納豆も来てくれました~。得した気分♪

台湾ドラマ『私たち恋しませんか?~原來愛・就是甜蜜』

私たち恋しませんか

“蜜蜜”こと田如蜜は、学生時代突然自分の前から姿を消した交際相手・徐燁との間にできた子を、ひとりで産んで育てているシングルマザー。
ある日、勤めていた旅行会社が倒産し、失業。 
そこで一念発起し、同僚の古立と、中古のバスを入手し、故郷の彰化で、自分の旅行会社を興す。

一方、アメリカでデザイナーを目指す青年・李勁陽は、デザイン賞を受賞し、ようやく輝かしい一歩を踏み出そうとした矢先、台湾の実家から、祖母が重い病に倒れたという知らせを受ける。
慌てて彰化の実家に戻ると、なんと祖母はピンピン。 
早く勁陽を結婚させ、家業の葡萄園を継がせたい祖母が仕組んだ罠であった…。


2013年2月、ホームドラマチャンネルでスタートした台湾ドラマ『私たち恋しませんか?~原來愛・就是甜蜜』が、7月上旬、全20話の放送を終了。 


★ 概要

『敗犬女王~敗犬女王』の監督・林清振(リン・チンジュン)×女優・楊謹華(シェリル・ヤン)コンビが、再びタッグを組んだ新たな偶像劇。
 
撮影の多くは、台湾中西部の彰化で行われている。
もう直日本で公開される映画『あの頃、君を追いかけた』もそうだけれど、最近、彰化を舞台にした映画やドラマが増えている気がする。 

★ 物語

アメリカから台湾の実家に引き戻されたデザイナーの勁陽は、冴えなかった高校時代に、密かに憧れていた蜜蜜と再会するが、観光ガイドをしながら、幼い息子・易翔を女手ひとつで育てるシングルマザーとなった現在の蜜蜜に、かつての華やいだ雰囲気は無く、ガッカリ。
誤解も有り、その後も会う度に何かと衝突するふたりであったが、易翔を通し、徐々に理解を深め、恋に落ちていく。
そんな時、その昔蜜蜜の前から突然姿を消した元恋人の徐燁が出現。
易翔が自分の息子だと知った徐燁が、蜜蜜との復縁を求めたことで、彼女を巡る勁陽と徐燁の三角関係に発展していくラヴ・ストーリー
 
 
勁陽がアメリカで付き合っていたRebecca、勁陽の祖母が仕組んだ勁陽の見合い相手・娟娟、学生時代からずーっと蜜蜜に想いを寄せ、彼女を支え続ける耀明、徐燁のフィアンセNicoleも参戦するので、実際は、三角関係どころか七角関係。
また、蜜蜜を奪い合うふたりの男性が、どちらも地元の名家の息子という事もあり、家族は、可愛い跡継ぎが、子持ちの女と交際することに、露骨に難色を示す。
ただでさえ好条件とは言い難いコブ付き、しかも舞台が保守的な小さな田舎町ということで、物語は益々複雑になっていく。 

★ キャスト その①:女主人公

私たち恋しませんか

楊謹華(シェリル・ヤン):田如蜜役~通称“蜜蜜” 易翔を女手ひとつで育てるシングルマザー
 
このドラマの見所のひとつが、主人公・蜜蜜に扮する楊謹華のコスプレ。

私たち恋しませんか

蜜蜜は、年甲斐も無く、形振り構わず、アニメのキャラクター風の衣装で、お客を案内する名物ガイド。
 
さらに気になるのは、“玫瑰公主(ローズプリンセス)”に選ばれ、輝いていた高校時代の回想シーン。 
元々カワイイ系ではなく、大人びたキレイ系の楊謹華が、30過ぎて高校生は、さすがにキツイ。
まぁ、だから面白いのだけれど。
彼女、実は、『敗犬女王』でも、セーラー服姿を披露している(↓)。
 
私たち恋しませんか

林清振監督は、楊謹華に何がナンでも制服を着せたいのか?!
笑いをとるための計算か?それとも中年女の制服姿に萌える一種のフェチなのか。
『敗犬女王』で楊謹華扮する單無雙と仕事のパートナーだった張若基に扮する應蔚民(イン・ウェイミン)は、この『私たち恋しませんか?』でも彼女の仕事上のパートナー古立を演じ、彼女のコスプレに再度お付き合いしている。 

★ キャスト その②:話題の新星・王陽明

私たち恋しませんか

王陽明(サニー・ワン):李勁陽役~不本意にアメリカから台湾に引き戻された駆け出しのデザイナー
 
アメリカで生まれ育った大手船舶会社の二枚目御曹司だの、蕭亞軒(エルバ・シャオ)の元カレだのと、注目度が高く、『イタズラな恋愛白書~我可能不會愛你』で一気にブレイクした王陽明。
良くも悪くも(…いや、どちらかと言うと悪い意味で)彼を注目せざるを得ないもうひとつのポイントが、背中から腕にかけ広範囲に施されている極道も真っ青な本格的な刺青。
『イタズラな恋愛白書』では上半身裸になったり、ランニングシャツ着用で、堂々と刺青を露出し、日本の視聴者をドン引きさせているようだが、本ドラマでは、長袖や七分袖を着用し、露出を避けている。
ただ隠したところで、すでに“脱いだらスゴイんです”と知ってしまっている私は、なかなか彼を堅気として見ることが出来ない。
あの刺青さえ無ければ、よく言われているように、張震(チャン・チェン)を髣髴させる男前なのに、惜しい。

本ドラマでは、ひと皮剥けるための、こんな努力(↓)も一応試みている。
 
私たち恋しませんか
 
高校時代は、冴えないヲタだったという設定。 
イケてる御曹司・王陽明に有るまじき盧廣仲(クラウド・ルー)風無駄にサラサラなマッシュルームカット。 

★ キャスト その③: その他の注目キャスト

私たち恋しませんか

吳中天(マット・ウー):徐燁役~かつて蜜蜜の前から突然姿を消した彼女の元恋人で易翔の実の父
 
三角関係の一角を担う重要な役なのに、“その他”にしてしまい、スミマセン。
なにせ王陽明の印象が強過ぎたので。
私だったら、手堅くこの徐燁と結婚するでしょう。…漏れなく面倒なお姑サマが付いてきてしまうが。
 
 
梅芳(メイ・ファン):寶玉役~勁陽の祖母
 
侯孝賢(ホウ・シャオシエン)監督作品でのイメージが強いベテラン女優・梅芳が、このようなお気軽な偶像劇で、日本のお茶の間に登場するのは、非常に珍しい。
 
 
王凱蒂(キャサリン・ワン):Rebecca役~勁陽がアメリカで付き合っていた女の子
 
美人でスタイル抜群、かのパーソンズ・スクール・オヴ・デザイン卒の王凱蒂が、王陽明と“あたしたち生粋のニューヨーカー”と言わんばかりに、本場仕込みの流暢な英語でやり取りするシーンに、若干アザトさも感じるが、まぁいいか。 
王凱蒂、日本語も喋るって本当…? 

★ 小道具

 私たち恋しませんか

通常偶像劇では、女性陣のバッグや小物に目が行くものだが、このドラマでは、李勁陽が身に付けているアクセサリーに注目。
職業はデザイナーという設定の李勁陽であるが、扮する王陽明自身、友人たちと共に、シルバーアクセサリーのブランド金銀帝國 Imperial Taelsを興し、2012年台北の東區に念願の路面店を出店している。
このドラマで李勁陽が身に付けているシルバーアクセサリーは、そのブランドの物。
私自身がこういう物を身に付けることは絶対に無いけれど、さすがアメリカ育ちの御曹司は垢抜けており、漢字などをモチーフにした東洋的なデザインは、洋の東西を問わず、若い男の子にウケそうと感心する。 

★ テーマ曲

オープニングには、郭靜(クレア・クオ)の<擁抱你的微笑>、エンディングには、王宏恩(ワン・ホンアン)の<看見>が流れる。
ここには<看見>を。 
一瞬王力宏(ワン・リーホン)と勘違いしそうな紛らわしい名前だが、王宏恩は布農(ブヌン)族のアーティストで、この曲では、歌のみならず、作詞作曲も手掛けている。
 

 
 


本ドラマ、幕開けはノリの良いコメディで、笑えて、楽しくて、どんどん物語の中に引き込まれていったのだが、中盤以降失速。
物語にもう最初の頃の勢いは感じられず、ダラダラと惰性で引っ張っている印象。
ところが、最後の最後、最終回も終盤に差し掛かった時、いきなり御都合主義の怒涛の展開…!
えっ、お金も無く、仕事も無く、英語も怪しく、(そして恐らくヴィザも無く)、子連れで無謀なアメリカ移住…?!
しかも、これまでの不運が嘘だったかのように、華やかに作家デビュー…??!
それだけでも充分なサプライズであったが、トドメは息子・易翔の成長っぷり…!
敢えてここでは多くを語らないでおくが、捲捲(ジュエンジュエン)が10年の間に、なんと劉以豪(リウ・イーハオ)に変身…!
確かに子供の成長は早いと言うが、それにしても、これっぽっちも変化しない大人の不老ぶりに比べ、易翔の成長は驚異的。一体アメリカで何を食べていたんだ…?
無邪気に再会を喜び、「勁陽爸爸!」と勁陽に抱き付くツーショットは、父と子には見えず、同志片のワンシーンのよう。このシーンで、一気に目が覚めた。 
この無理矢理な感じ、さすがは予測不能な台湾偶像劇。相変わらず目が離せませワ。
中弛みも有ったけれど、終わり良ければ全て良しという事にしておく。
 

ホームドラマチャンネル、水曜深夜のこの枠は、昨晩より“が・ぐんしょう”こと賀軍翔(マイク・ハー)主演のドラマ『1/2の両想い~美人龍湯』を放送。
ハッキリ言って、賀(が)サン主演のドラマは、もうコリゴリ。
だが、このドラマは日本絡み。賀サンが、日本と台湾で離れ離れに育った双子をひとりで演じる。
取り敢えず第1話だけ観たら、賀さん、早速、日本育ちにしてはタドタドしい日本語で喋っているではないか。
他に惹かれる部分は無いのだが、怖い物見たさで、もう1~2話だけ観て、捨てようかしら。

台湾ドラマ『五月に降る雪~記得・我們有約』

五月に降る雪
 
台湾・苗栗。 
児童施設で育った女の子・叮噹は、自分を本当の孫のように可愛がってくれる王爺爺の農場を手伝ったり、駅前でお手製のコーヒーを売るのが日課。
仲の良い男友達・阿泰は、毎日コーヒーを買いに来てくれるが、叮噹は、彼が密かに自分に想いを寄せていることも、彼が本当は大手自動車メーカーの社長であることも知らない。
ある時、ある男性客が、王爺爺の民宿を、専属世話係付きで1ヶ月貸し切りにしたいと申し出てくる。
提示された破格の料金にひかれ、叮噹は自ら世話係を買って出て、この申し出を受けるが、やって来たRobertというその客は気難しく、叮噹は対応に大わらわ。
このRobertが、ここに来た本当の理由などには、到底気付く余地など無く…。

 
2012年10月、BS日テレで開始した台湾ドラマ『五月に降る雪~記得・我們有約』が、2013年2月20日、放送を終了。 
全20話だったのか。案外短い。
退屈で、60話くらい延々と観続けているような錯覚を起こしていた…。

★ 概要

監督したのは、これまで『Silence~深情密碼』『笑うハナに恋きたる~不良笑花』、『泡沫(うたかた)の夏~泡沫之夏』などを手掛けた張博昱(チャン・ボーユー)
韓流テイスト、ポップなラヴコメ、メロドラマと作風色々。 
 
 
原題とはまったく意味の異なる邦題は、“五月雪”とも呼ばれ、台湾で親しまれている油桐花が、本作品の象徴になっているため命名されたものと察する。
この油桐花は、これまで台湾の作品に幾度となく描かれており、中でも印象的な映画『五月の恋』が、本ドラマの邦題となんかダブってしまい、ややこしい。
ついでに言っておくと、『台北に舞う雪』という映画もあるが、その作品の中で降る白い雪は、油桐花ではなく、なんの情緒も無い消火剤(…!)。
“雪”ではなく“風”なら、『九月に降る風』という映画も有り。

★ 物語

台湾・苗栗を舞台に、明るく快活な女の子・叮噹を巡り、家駿、阿泰というふたりの青年が繰り広げる三角関係を、この地に語り継がれる油桐花の伝説になぞらえ静かに綴るラヴストーリー。 
 
 
若者たちの叶いそうで叶わない恋を暗示させるのは、叮噹を本当の孫のように可愛がる王爺爺の若かりし日の恋物語。
かつて、王爺爺には、日本人の恋人“ゆめちゃん”が居たが、どうにもならない歴史の変化で、ふたりは離ればなれになってしまったのだ。
ドラマは、まず、そんな日本統治時代のシーンから始まる。
 
わぁーぉ、懐かしい風景の中に佇むのは、なんとフジヤマゲイシャやバカ殿様。
まるで60年代のハリウッド映画に登場する胡散臭い“なんちゃってジャパニーズ”。 
昔のアメリカならともかく、地理的に近く、古くから密な交流のある台湾で、日本人がこのように描かれるって、どーゆー事…?! 
いや、それを批判しているのではない。むしろ歓迎。 
この幕開けに、B級の臭いをプンプン感じ取り、これから始まる物語に期待感が膨らんだ。
 
ところが、その後の展開が、凡(ボン)、凡(ボン)、凡(ボン)、超凡庸(チョーぼんよぉー)。
孤児院育ちだが、明るく快活で、いつも一生懸命な女主人公が、身分違いの王子様ふたり、優しいアンソニー(阿泰)と不良っぽいテリー(家駿)から想われ、揺れる話なんて、まるで『キャンディ・キャンディ』から脈々と続く古典的なシンデレラ・ストーリーではないか。
今どき政略結婚をもちだす展開も陳腐。
どこをとっても半端に古臭っ…。 
どうせ古臭いなら、フジヤマゲイシャ路線まで、徹底的に古臭くしていただきたかった。 

★ キャスト:その①~メイン

五月に降る雪

陳妍希(ミシェル・チェン):江沐雲/叮噹~児童施設で育った明るく元気な女の子
 
元々陳妍希は、お嬢様役より、彼女をスターダムにのし上げた映画『あの頃、君を追いかけた』や本作品で演じているような、庶民的な女の子役の方が、断然合っている。 
つまり本作品は、ハマリ役なのだが、単純に私好みではない。
高飛車なオンナと、明るく健気な庶民派女子のどちらかを選べと言われたら、迷わず高ビーなオンナを選ぶような私には、叮噹はどうも受け入れ難いキャラクター。
日本人男性にはウケそうだが、陳妍希だってもうアラサー。いつまでも“普通の女の子”ではいられない。
『あの頃、君を追いかけた』で大ブレイク後は、本作も含め、ヒット作に恵まれていないので、今後どういう路線に変貌していくのか(もしくは変貌しないのか)に注目。
 
 
朱孝天(ケン・チュウ):駱家駿~リゾート開発の視察で苗栗にやって来た尊爵建設の後継者
 
久し振りにドラマで見た朱孝天。『桃花タイフーン!~桃花小妹』以来だろうか。 
ふくよかになりがちな彼だけれど、本ドラマではいい感じに絞られている。
今回演じた駱家駿には、“Robert”という英語名が有るのだが、英語が苦手で上手く発音出来ない叮噹からは、“蘿蔔(luóbo=大根)”と呼ばれている。 (日本語字幕では“ロバ男”。)
どんなに英語が不得手でも“Robert”くらい言えるだろっ!と、益々叮噹にイラッ…。
(陳妍希の名誉のために言っておくと、実際の彼女は英語ペラペラ。)
もうひとつ言及しておくと、“蘿蔔→ロバ男”は、日本語字幕にする際、便宜上大いに“有り”だが、“家駿”を“チアシュン”と表記するのは、「・・・??」。 
一体どういう聴力をしていたら“家駿”が“チアシュン”に聞こえるのか分からないが、そう聞こえると言うのなら、それでもOK。だから、いい加減字幕は“漢字+片仮名ルビ”で表記して。
 
 
吳中天(マット・ウー):楊文泰/阿泰~叮噹に想いを寄せる自動車メーカー社長
 
このドラマは、吳中天が出ていたから観たようなもの。
扮する阿泰は、誠実で美男でお金持ちと、是非ともお婿サマに来ていただきたい“買い”の男性。
まったく叮噹ってば、男見る目無いんだからぁー。
そんな阿泰の母親は、可愛い息子が、どこの馬の骨とも分からない娘と付き合うことを、ひどく案じていたが、それ以前に、私は彼女に申し上げたい、「お母様、御子息、勤務時間がえらく少ないですわよ」と。
大手自動車メーカーの社長が、あそこまで仕事せず、いつも駅前で油を売っていたり、女の子の尻を追っているようでは、他人事ながら、会社の行く末が心配になる。
阿泰、最終回では珍しくちょっとお仕事していたので安堵。
 
 
吳亞馨(マギー・ウー):夏寶兒~ずっと家駿を想い続けている夏氏企業の後継者
 
真相は闇の中だが(←かなりの確率で“黒”って気がする)、本作品で共演している朱孝天と恋を噂されたモデルで女優の吳亞馨。美女デス。
扮する寶兒も当然ルックス抜群で、おまけに頭が切れてお金持ちと、全てを備えた完璧な女性。 
なのに、恋では、正反対の平凡な主人公・叮噹に、まさかの敗退…(←予想通りの展開)。
こういう弱者が強者をギャフンと言わせるという筋書きに痛快感を見い出そうとする小市民的な発想、ステレオタイプな描き方に送ってしまうわ、Booing。
『白鳥麗子でございます!』や『王子様の条件~拜金女王』のように、美女が高笑いしていた方が、湿っぽくなくてよろしい 。本ドラマでも、私は叮噹より寶兒派であった。  

★ キャスト:その②~脇を固めるベテラン勢

次に、脇を固めるお兄サマ、お姐サマの中でも、特に気になるお三方に焦点を当ててみる。
 
五月に降る雪
◆高捷(ジャック・カオ):夏偉杰~夏氏企業の会長 寶兒の父
 
日本に上陸する台湾偶像劇の中で高捷を見るのは珍しい。しかも財界の大物役…?!
ヤーさん役がすっかり染み着いている台湾屈指の極道俳優(?)が演じるセレブリティに、当初かなりの違和感を覚えたが、回を追うごとに慣れていった。
だいたいこの役、大企業の会長といっても、やっている事は半ばヤクザだし。
だから高捷が起用されたのか?
 

五月に降る雪
張復建(チャン・フージェン):王爺爺~若かりし日の恋人を永遠に待ち続ける農場の経営者
 
王爺爺、一体いつまで“ゆめちゃん”を待ち続けるのぉ~。
万が一再会できても、“ゆめちゃん”、もはやボロボロのボロ雑巾みたいに朽ち果てていることでしょう。
その“ゆめ(夢)”、悪夢に変わるから(笑)。 
まぁ、そんな事より、演じている張復建。 
これまで日本で放送された『ザ・ホスピタル~白色巨塔』での黃凱元院長役や『ブラック&ホワイト~痞子英雄』での范大誠国会議長とは、まるで別人。 
かなりふっくらし、穏やかな雰囲気で、この人だったら、本当に死ぬまで“ゆめちゃん”を待ち続けてしまいそう…、と思えてくる。
 

 五月に降る雪
◆葛蕾(グオ・レイ): 寶兒の母~報われない愛に固執する娘を案じる良識的な母親
 
お姑サマ軍団の中で唯一優しいのが、寶兒のママ。
葛蕾と吳亞馨は、どちらも鼻が丸くて、目がクリッとしていて、本当の母娘のように似た顔立ち。
葛蕾は、ちょうど同時期にBSジャパンで放送していた『クイーンズ 長安、後宮の乱~母儀天下』にも、主人公・王政君を支える公孫夫人役で出演していたので、なんとなく気になった。
『クイーンズ』を観た後に『五月に降る雪』を観ると、公孫夫人が年甲斐もなくミニスカートを履いていて、ちょっとハッとさせられる事もしばしばであった。

★ 主題歌

このドラマで唯一褒めてさし上げたいのが、エンディング曲<如果有如果>
歌っているのは、“阿福(アフー)”こと鄧福如(タン・フールー)。透明感のある癒しの歌声。
 

 
 



観る前に、私好みのドラマではないと直感したけれど、残念ながら、その直感は的中であった。
駄目だった一番の理由は、物語が古臭く感じられ、単純に自分の好みに合わなかったという事。
物語が退屈でも、登場人物に何かしらの魅力があれば、辛うじて観続けられる気もするけれど、本作の主人公・叮噹には、惹かれる部分がまったく無い。
現在NHKで放送中の朝ドラ『純と愛』の主人公・純ほどではないにしても、“逆境にもめげず、明るく元気で、いつも一生懸命”キャラの女の子って、同性からは鬱陶しがられ、共感されにくい気がする。
おまけに見た目も野暮ったいから、なおのこと。あのモワモワの髪型、どうにかならなかったのか。
陳妍希は、等身大の女の子を演じた『あの頃、君を追いかけた』で“女神”とまで祭り上げられたが、それはあくまでも男性目線 。(女性は同性にシビアで、フツーの子を“女神”などと崇めない。)
こういう偶像劇の視聴者の多くは恐らく女性だろうから、ああいうキャラは支持されにくいだろうし、本ドラマがあまり話題にならなかったのも納得。
 
同時進行で視聴していた台湾偶像劇は、『アリスへの奇跡~給愛麗絲的奇蹟』もこれもハズレ。
傑作という程ではなくても、『マジで君に恋してる~粉愛粉愛你』がずっとマシに感じる。
あと、始まって間もない『私たち恋しませんか~原來愛・就是甜蜜』は、今のところ楽しくてイイ感じ。

 
さて、BS日テレ、水曜夜11時、『五月に降る雪』の後のこの枠は、来週から『イタズラな恋愛白書~我可能不會愛你』を放送。
久々の陳柏霖(チェン・ボーリン)。評判のドラマなので、これは結構楽しみ。

映画『運命の死化粧師』

運命の死化粧師
 
【2011年/台湾/107min.】
吳敏秀は27歳の死化粧師。 
ある日、仕事場に運ばれてきた自殺した女性の遺体を見て、言葉を失う。
高校時代世話になった音楽教師・陳庭だったのだ。
戸惑いながらも仕事をこなし、無事葬儀が済むと、陳庭の夫・聶城夫から「昔の妻の事を教えて欲しい」と連絡が入る。
また、郭詠明と名乗る刑事も敏秀に接近。
陳庭の死は自殺ではないと言い、捜査への協力を要請され…。

 
第24回東京国際映画祭 アジアの風部門で上映された台湾映画を鑑賞。
この上映に際し、監督の連奕琦(リエン・イーチー)、脚本の于尚民(ユー・シャオミン)、出演者の謝欣穎(ニッキー・シエ)隋棠(ソニア・スイ)が来日し、舞台挨拶とQ&Aを実施。(→参照
 
本作品で長編監督デビューした連奕琦監督は、『海角七号~君想う、国境の南』で助監督をした人らしい。
映画祭の公式サイトに載っているあらすじを読んでも今ひとつソソられない上、苦手な『海角7号』の助監督だと知ってしまい、益々気分が萎える。
純粋に作品に興味が有ったわけではなく、登壇する女優さん目当てで、映画館に行ったようなもの。
 


 

事前にほとんど知識を入れなかった私は、“サスペンス版『おくりびと』”のような作品と、勝手に予想。
下手すると、ホラーの要素も?…なんて考えていたけれど、違った。
若い死化粧師・敏秀が、高校時代の音楽教師・陳庭の変わり果てた姿に再会したことをキッカケに、敏秀と陳庭の過去、その後の陳庭と夫・聶城夫の関係、そしてこの死になぜか首を突っ込む刑事・郭詠明の思いが、徐々に紐解かれていく愛憎のヒューマンドラマって感じ。
 

同性愛を描いているのは、意表を突かれた。
亡くなった陳庭の夫の存在を知った敏秀が、「えっ、先生は結婚していたの?」と意外な顔をしたので、何か変だとは思ったけれど、そーゆー事だったとはねぇ~。
では、そんな陳庭先生が、いつの頃から、なぜ敏秀と会わなくなったのか、またどういう経緯で聶城夫と結婚したのかという点が気になり、物語の展開を追った。
 
訳あり刑事・郭詠明が、聶城夫に執着する理由づけは、やや弱くも感じる。
郭詠明のエピソードは、いっそバッサリ割愛しても良いとさえ思ったけれど、彼が居ないと、敏秀は聶城夫の周辺を調べ始めなかっただろうし、やはりこのままで良いのかも。
 



運命の死化粧師
 
出演は、死化粧師・吳敏秀に謝欣穎(ニッキー・シエ)
遺体となって再び敏秀の前に現れた彼女の元先生・陳庭に隋棠(ソニア・スイ)
陳庭の夫で精神科医の聶城夫に吳中天(マット・ウー)
そして陳庭の死に疑問を持ち捜査する刑事・郭詠明に張睿家(ブライアン改めレイ・チャン)
 

この中で、今回一番見るのを楽しみにしていたのは謝欣穎。
演技は、ドラマ『イタズラなKiss~惡作劇之吻』でちょこっと見たことがあるだけだけれど、侯孝賢(ホウ・シャオシエン)監督の事務所が唯一契約している女優であることから察するに、偶像劇に終わる才能とは思えない。
本作品では、きらきら屈託のない17歳の過去と、ちょっと冷めた27歳の現在を演じているが、どちらもなかなか良かった。
アイドルとして充分やっていける可愛らしい顔立ちだが、きちんと芯が通っていて、自分のスタイルを持っている印象。
今後、テレビドラマではなく、スクリーンでどんどん活躍してくれることに期待。

 
本作品で銀幕デビューの隋棠は、元々薄いお醤油顔だから、メイクだけでもかなり印象が変わる。
特に結婚後の薄幸な雰囲気が良し。
 

男性陣は、どちらも好きな俳優さん。
特に吳中天は、日本での公開作品が少ないので、本作品で見られて嬉しい。
 
 
その吳中天扮する聶城夫が、妻亡き後もひとりで暮らしている家、あの暖炉の有る部屋って、ドラマ『結婚って、幸せですか~犀利人妻』で隋棠扮する安真が暮らしている所と同じよねぇ…?!
 
運命の死化粧師

左右に広くとったガラス窓、突き当り中央の暖炉、グレーのタイルで、すぐにピンときた。
隋棠、化粧品メーカー部長の浮気夫と離婚する際、この家をもらい、精神科医との再婚後も、そのままここに居据わったのかしらぁー (笑)。
 


 
 
好みのタイプではないけれど、予想していた物語とぜんぜん違ったという新鮮な裏切りで、結構楽しめた。
映像も綺麗。取り分け夜のシーンの青みがかった色調や、過去のシーンの柔らかなトーンが。
私が求める台湾映画とは違うけれど、少なくとも連奕琦監督が、助監督として関わった『海角七号』よりはずっと好き。
あと、謝欣穎の出演作は、もっと観てみたい。
 
 
◆来日した監督、脚本家、出演者による舞台挨拶とQ&Aに関しては、こちらから。

映画『シャングリラ』

シャングリラ

【2008年/中国・台湾/106min.】

台北。 
幼い息子・同同を不慮の事故で亡くした悲しみから立ち直れないでいる季玲。
同同を車で轢いた事実を未だ否認する白夫妻に、季玲の憤りはつのる一方。
しかし夫・王一帆はそんな季玲を理解してくれず、夫婦の間にも深い溝が。
ある日季玲は、同同が生前書いた“宝探しごっこ”のヒントを偶然見付け、そこから何か手掛かりを得ようと、ひとり雲南省の香格里拉(シャングリラ)へ旅発つ。
着いて早々バッグを失くしてしまった李玲であったが、Alexという青年に助けられ、彼と共に梅里雪山を目指すことになるが…。


2009年 第10回 NHKアジア・フィルム・フェスティバルで鑑賞。


監督した丁乃箏(ティン・ナイチョン)はべっぴんサンだと思ったら、台湾の劇団 表演工作坊で、演出や脚本を手掛けるのみならず、女優としても活躍している人らしい。

F4・朱孝天(ケン・チュウ)の初舞台作品『他和他的兩個老婆~He And His Two Wives』も北京央華文化公司と共同制作しているのが表演工作坊で、演出に当たるのはこの丁乃箏。
朱孝天迷はそう知ると、取り敢えず映画『シャングリラ』も観ておきたくなる…?


もっとも私が観たいと思った理由は他に有る。
大して内容も知らずに、「きっと苦手なタイプ…」と直感した本作品だが、それでも観たいと欲したのは、吳中天(マット・ウー/ウー・ジョンティエン)が出ている珍しい映画作品だから。
大沢たかお系の、あの腫れぼったい目元に胸きゅん。
先日東京国際映画祭で観た『台北24時』にもちょっと出演していたけれど、ほとんど顔が写っていなかったので、この度、雪辱の鑑賞。






愛息・同同を亡くした悲しみから抜け出せない女性・季玲が、同同が遺した“宝探しごっこ”のヒントを辿り、台北から遠く離れた中国雲南省にある梅里雪山を目指すロードムーヴィ
宝探しごっこの旅は、いつしか季玲自身も気付かぬ内に、彼女をがんじがらめにしていた様々な呪縛から解き放たれる旅となる。


夫婦仲の歪みを描いた前半を観て、台湾ドラマ『求婚事務所』の張國柱(チャン・グォチュー)主演のエピソード<危険な情事~致命的吸引力>を思い出した。
あれも、幼い息子の死をキッカケに、関係が崩れていく夫婦の話がベースに有った。
実際にも、子供の死で、関係が悪くなり、離婚にまで至るケースは、結構有ると聞く。
そんな悲劇が起きた時こそ、夫婦の結束は強くなるものだと、独身者の私は思ってしまうけれど、現実はもっと複雑なようで…。

子供を亡くせば男性だって勿論悲しいだろうけれど、その子を産むために自分の腹を痛めた女性の比ではない。
「あの子の死は、自分の不注意のせい…」と思えば、なおのこと。
夫の方は、妻を気遣ってこそ、いつまでもクヨクヨせず、前向きに新たな人生を歩もうと仕向けるのだが、妻はそんな夫に対し「理解がない」と感じ、夫婦間の溝は広がるばかり…。
一般的には、こんな感じか。
少なくとも、この映画の季玲&王一帆夫妻は、このようであった。


前半は、そんな事を考えながら鑑賞もしたが、トータルで考えると、鑑賞前の直感はズバリ的中、ハッキリ言って、私好みの作品ではなかった。

その理由は、まず、① 物語が安直かつ唐突で、なおかつ、② 主人公・季玲のキャラが好きになれなかった、…からである。

子を事故で亡くした悲しみから抜け出せない母親という設定は、現実味が有るけれど、生前、幼い息子が、行ったことも見たこともない梅里雪山の絵を暗示的に描いたり、「卡娃噶寶、卡娃噶寶~(カワカブ、=梅里雪山の主峰)」とやたら口にするのは、渋すぎやしないか。
しかも、そこから何かを感じ取った母親が、思い立って雲南省まで飛んじゃうか…?!
確かに、京王線で高尾山へ行くより、納西(ナシ)族の神山、梅里雪山へ行く方が神秘的で、ロマンティックで、映画的ではあるけれど。
しかもバッグを失くした季玲が、一銭も持たずに、着の身着のまま山へ向かい、遭難して西藏(チベット)族に助けられ、民族衣装を着て、彼らと宴の席、…なんて有りがちの展開だし、リアリティ無さ過ぎ。

人生最悪の時だった事を考慮しても、私の目には、季玲はイヤな女に映った。
夫が触れてきても、丸太のようだった季玲が、相手がAlexだと、満更でもない様子。
どう見ても夫より若くてイケているAlexと楽しそうにされると、オンナのニオイをぷんぷん感じ、息子のために心を痛めていた今までの母の顔はナンだったんだ…?!と、彼女の心が分からなくなり、嫌悪感さえ湧いてきた。

それに、そんなAlexに対する態度だって大柄だ。
どういう訳か、親切にされて当然!という態度で、謙虚さが感じられない。
季玲が吐いた汚物付きコートを、黙々と川で洗濯するAlexの姿が、なんともけな気…。(^-^;)
長い眠りから覚めた時、枕元でおふざけをした西藏族の少年に向けた目も、同じ年頃の子供を持っていた母親とは思えないほど冷ややかであった。

だいたいさー、我を見失うほど打ち拉がれていた女が、雲南省に着いて早々、土産物屋へ行って、カバンを値切っている場合でしょーか…?!



シャングリラ

そんな主人公・季玲に扮したのは、朱芷瑩(チュー・チーイン)
『ラスト、コーション』で湯唯(タン・ウェイ)の友人を演じていた女優さん。
彼女も元々表演工作坊の女優らしい。
季玲というキャラは好きになれなかったけれど、朱芷瑩の演技は、舞台出身者ならではの過剰なものとは、感じなかった。


シャングリラ

私のお目当て、吳中天(マット・ウー/ウー・ジョンティエン)は、Alexの役。

今まで、台湾ドラマの中では、清潔感のある好青年役を多く見てきたが、今回は首に守護天使 Guardian Angelのタトゥを入れ、実年齢より若い印象の男の子を演じていた。
Alexは、台北から雲南省まで、こっそり季玲を追う謎めいた青年だけれど、かなり早い時点で、正体が読めてしまうので、サスペンスとしても退屈。
しかも、もっと最後の方までAlexが物語に絡むのかと思いきや、正体がバレてそれっきり。
ちょっと肩透かしを食らった気分。


本作品には、日本人も関係している。
まずは、映画の中で、同同が気に入って読んでいる絵本。
これは、ただの小道具ではなく、実際に出版もされたそう。

シャングリラ

丁乃箏監督が物語を書いた<卡娃噶寶的冒險~The adventure Of Kawarkapa>という絵本で、絵を担当したのが、日本の絵本作家、仁科幸子とのこと。

音楽を担当しているのも日本人で、櫻井弘二という人。
台湾を拠点に活躍しているようで、今まで編曲、作曲、プロデュース等で係わってきたアーティストは、張惠妹(アーメイ)、梁詠琪(ジジ・リョン)、王力宏(ワン・リーホン)、謝霆鋒(ニコラス・ツェー)、鄭秀文(サミー・チェン)、趙薇(ヴィッキー・チャオ)等々ビッグネームがズラリ。
もしかして、日本ではあまり知られていない日本のスゴイ人なのかも。


予告編では、後半、王若琳(ジョアンナ・ウォン)<Aubrey>が流れているけれど、本編では使われていましたっけ。
日本でも近年よくある、新作映画の“イメージソング”というやつか?






元々期待していなかったので、失望は無い。
むしろ、予想よりずっとマシに感じたくらい。
話は面白くなかったけれど、強いて良かった点を挙げるならば、演劇畑の人が手掛けた映画特有の大袈裟に作り込まれた印象は、受けなかった。

物語が心に響かなかったせいか、季玲の茶色いバッグばかりが記憶に残ってしまった…。
今まで、中国や台湾の映画/ドラマの中で、お金持ちという設定の登場人物が、MULBERRY マルベリーのバッグ(季玲の物は、恐らくBayswater)を持って出てくるのは見た覚えが無い。
通常、金持ちでも安物か、あるいは、もっと分かり易い高級バッグを持って出てくる。
本作品でも、事故の加害者・白洋の妻の方は、同じリッチなマダムでも、瞬時にシャネルと判るロゴ入りバッグであった。


【余談】

“映画も撮る舞台人”繋がりで思い出したけれど、この日、都内某線に乗っていたら、同じ車両に宮藤官九郎が飛び乗ってきた。 
相当走ったようで、汗だくであった。(^∀^)

台湾ドラマ『悪魔で候~惡魔在身邊』

悪魔で候

大学2年生の齊悦は、同級生でバスケ部部長の源伊に片想い。
勇気を振り絞りラブレターを書くが、あろうことか、学校一の問題児・江猛の手に渡ってしまう。
「返して欲しければ僕(しもべ)になれ」
そんな江猛の理不尽な要求に従うしかない齊悦に驚きの知らせ。
ママの再婚が決まったのだ。
相手はなんと齊悦が通う大学の理事長!しかも理事長の息子は、あの江猛ではないか…!
意に反して姉弟の関係になり、悪魔のような江猛に監視される日々が始まる…。


2007年10月23日(火曜)、BS日テレで放送の台湾ドラマ『悪魔で候~惡魔在身邊』、全20話が終了。
遅ればせながら、録画しておいた最終話を鑑賞。


★ 概要

原作は、高梨みつばの同名コミック(…らしい)。

監督したのは、『Silence~深情密碼』『ホントの恋の*見つけかた~轉角*遇到愛』『ろまんす五段活用~公主小妹』等々、話題作連発の林合隆(リン・ハーロン)

本作品出演の楊丞琳(レイニー・ヤン)×賀軍翔(マイク・ハー)×王傳一(ワン・チュアンイー)というトリオを再び起用し、プロデューサー柴智屏(アンジー・チャイ)と共に、この後『天使のラブクーポン~換換愛』を撮っている。
“同じメンバーでもう1本”という事は、そもそもこの『惡魔在身邊』が好評を博したのであろう。
原作を知らない私でも、期待が高まる。


★ 物語

大学に通う女主人公が、理事長の息子率いる問題児軍団に目を付けられ、不当なイジメにあう。
えっ?これって『流星花園』か?! 第1話を観て、真っ先にそう思った。
だが、第2話くらいから、もう話の流れは変わってくる。

主人公・齊悦は、片想いの相手・源伊と、実は両想いだった事が分かりハッピー♪
しかし、「欲しいものは必ず手に入れる」という悪魔のような江猛から執拗な嫌がらせが。
しかも、親の再婚で、そんなイヤな奴とあろうことか姉弟の関係に…!
しかもしかも、嫌っていたハズの江猛に心惹かれている自分に気付いたから大変。
姉弟の禁断の恋が始まる…。

血のつながりは無いといえ、姉弟の恋愛なんて、親に打ち明けられる訳が無い。
その上、江猛はモテるし、別れて暮らす実弟との関係もギクシャクだし、齊悦は齊悦で、初恋の相手田思慎と再会するしで、ふたりの前には障害だらけ…。

さらに、齊悦が最初憧れていた源伊が、結局齊悦の親友・晴紫と付き合うようになったり、他の友人、両親の話も出てきて、長過ぎない全20話の中に、飽きさせないエピソードが盛り沢山。


★ キャスト

若手アイドルが多数出演しているが、その中でも特に気になった数名だけをピックアップ。

楊丞琳(レイニー・ヤン):齊悦役

さすが“可愛教主”と呼ばれるだけあり、とっても可愛い楊丞琳。
眉毛はキッチリ整えていても、口ヒゲにまでは気が回らないようだ。
可愛らしい口元で、フサフサなびく口ヒゲは、もはや彼女のシンボルなので(?)、このままヒゲを剃り落とすXデーが訪れないことを願ってしまう私。 
特にドラマ前半では、キュートな童顔で、変な顔も連発。


賀軍翔(マイク・ハー):江猛役

最近賀軍翔ファンが激増しているので、あまり大きな声では言えないが、今まで彼を他のドラマで見てきて、や、や、や、野暮ったい'''と思っていた(…スミマセン)。
日本での所属事務所が、あのペ・ヨンジュンと同じと聞き、妙に納得。
その事務所、“懐かしい系”男子が得意なのかナ、と。
ただ本ドラマでの賀軍翔は、ちょっと違う。
「もう、ひと昔前の好青年なんて呼ばせないゼ!」と言わんばかりに、ワイルドに変貌。
毛量は相変わらず多く、年々コシのなくなる薄毛に悩む私には、羨ましいばかり。
そんな多毛を黒ピンでとめ、ワイルドにセット。
表情も今回は、かもぼこ型の瞳で、上目遣いに、ニッと意味深に笑うのがお決まり。
ギターはどうやら苦手なようで、ライヴハウスでの演奏シーンは、明らかに動きがギコチなかった。(^∀^;)


王傳一(ワン・チュアンイー):尚源伊役

ヤングアイドル達の中で、ひときわ落ち着いた佇まいの王傳一。
「30代、こども二人」と言っても、疑う者など居ないのでは…。
そんなオッサンアイドルに本来無関心な私だが (ファンの皆様すみません…)、以前テレビで、「日本語のできる父からは“ハジメちゃん”と呼ばれています」と発言しているのを見て、意味もなく、へぇ~結構イイ人じゃない、と思い込んでしまった単純な私。
今回の役も、男気のあるイイ人である。


蔡裴琳(エリ・ツァイ):晴紫役

アゴ長し。以上。


増山裕紀(YUKI):于陽平役

日台ハーフの裕紀クンは、今回髪を金髪に染め、ヘアバンド&ゴーグルを着用して出演。
彼は、小鳥とかハムスターのような小動物系のちまちまっとしたお顔が特徴なので、地味にしていると、本当に地味なのだが、この“ちょい派手め”がとっても似合う。
江猛の4人いる悪友の内、最も重要な役で、出演時間も長い。


吳中天(マット・ウー):田思慎役

齊悦の初恋の相手として、ドラマ後半に出演。
大沢たかお系の腫れぼったい目、爽やかな笑顔、そして長身。
同じ頃他チャンネルで放送していた『マジック・リング~愛情魔戒』では、さっさと死んでしまったため、『惡魔在身邊』後半は、吳中天だけを目当てに、ドラマを観ていた私。
今後は映画を中心に活動したいと発言しているのも、映画好きな私には嬉しい。
確か、鄭文堂(チェン・ウェンタン)監督の『夏天的尾巴』にも出ていなかったっけ…?





台湾ドラマに使用されるエプロンは、なぜかドラえもん柄が多いなぁ~と思ったり、齊悦ハンドメイドの愛の手袋が、編み物という割りにフリースっぽい素材感だったり、美術系大学生の彼らがデザインする超ハイセンス(…なハズの)クリスマスツリーが、拍子抜けする程平凡な物だったりと、本作品も疑問・ツッコミ所は多々有ったが、まずまず楽しめた。
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