知否 知否 應是綠肥紅瘦

宋代、冬の揚州。
盛明蘭は、盛家の当主・盛紘の側女、衛恕意の娘。
衛恕意は、第二子の出産を控え、大きなお腹を抱える身だが、差配を任されている林噙霜の企てで、部屋を暖める炭さえ分けてもらえない。
手元に残った最後の嫁入り道具である腕輪まで売って炭を買おうとする母を、必死に止める明蘭。

その頃、盛家では、正妻の長女・華蘭が結納を控え、宴の準備で忙しく、側女の炭などに構っていられない。
華蘭の相手は、忠勤伯府の二公子・袁文紹。
この期に及んで、正妻・王若弗は、この縁組みに猛反対。
本来なら結納は伯爵夫妻が揚州に来るべきなのに、長子の袁文純を寄こすとは、伯爵家だからといって馬鹿にするにも程がある。そんな所に、愛娘を嫁がすわけにはいかない、と。

どうにか王若弗をなだめ、袁文純の一行を迎え、宴が始まるも、またもや一悶着。
側女 林噙霜の息子・長楓が、袁文純と一緒にやって来た白燁という少年に乗せられ、結納品の雁を賭け、投壺を始めたものの、負けそうなのだ。
結納品を奪われたら盛家の面目丸潰れ。
なんとか投壺を止めさせたくても、主が客を制するのでは、体裁が悪い。

盛紘が困り果てていると、突如、幼い明蘭が矢を手に取り、見事壺の中に。
その後も、長楓に代わり、年長の白燁を相手に、どんどん点を取り、互角の勝負をする明蘭。

明蘭はこの時まだ知らない、この先彼女を待ち受けている波乱の人生も、将来この白燁と夫婦となり添い遂げることも…。


2019年10月下旬、衛星劇場でスタートした大陸ドラマ『明蘭 才媛の春~知否 知否 應是綠肥紅瘦』 が、年を跨いだ2020年7月初旬、全73話の放送を終了。


最近の私のお気に入りは、wowowの『長安二十四時~長安十二時辰』と、衛星劇場のこの『明蘭』が、もーブッチギリのツートップ。
その内の一本『明蘭』が終わってしまい、淋しい…。

『長安二十四時』は情報量が多く、展開がスピーディーで、追うのにゼーゼー息切れを起こすドラマ。
一方『明蘭』はなんて事ないドラマと両極端なので、視聴のバランスも良し。

えっ、なんて事ないの?じゃぁツマラナいでしょ?!と思う人もいるかも知れない。
確かに“なんて事ない”けれど、『明蘭』はそこに面白みのある秀作なのであります。

ブログでは、今回こそ短くまとめようと思ったのに、書き出したら止まらなくなってしまい、またまた超長文になってしまった…。



当ブログからの盗用を見る度にとてもイヤな気持ちになります。きちんとリンクをお願いいたします。)


概要

關心則亂の同名小説を(初出版当時のタイトルは<庶女明蘭傳>であったが、その後改名)、曾露(ズン・ルー)吳桐(ウー・トン)の脚本、張開宙(ジャン・カイジョウ)監督のメガホンでドラマ化。

原作者の關心則亂、脚本家の曾露と吳桐、3人とも女性。
(そこ、結構重要かも。過去に「甘ったるい…」と虫唾が走った作品の多くは、男性脚本家によるものだったので。ちゃんと突き詰めれば、男女に関係なく“個人差”だろうけれど、女性の方がリアリストで、男性の方がロマンティストな傾向はあるかも知れない。)


『琅琊榜(ろうやぼう)麒麟の才子、風雲起こす~瑯琊榜』のメガヒットで日本でも知名度を上げた侯鴻亮(ホウ・ホンリャン)がプロデュースする東陽正午陽光の作品である。

明蘭

こちら、張開宙監督(左)と侯鴻亮P(右)。
張開宙監督は1975年、侯鴻亮Pは1973年生まれで、ほぼ同世代。

『琅琊榜』のイメージが強い東陽正午陽光だが、実は時代劇の制作はさほど多くはない。
メガヒットを記録した『琅琊榜』以降初めて撮る時代劇は、『琅琊榜』とは異なる、女性の奮闘を描く物にするという明確な考えがあったようだ。


タイトル

原題は『知否 知否 應是綠肥紅瘦』
このタイトルは、中国語ネイティヴの人々にとっても長いようで、よく『知否』と略される。
北宋の女流詞人・李清照(1084-1155)の作品<如夢令·昨夜雨疏風驟>から抜粋した一節。 

<如夢令·昨夜雨疏風驟>全文は以下の通り。

昨夜雨疏風驟,濃睡不消殘酒
(昨夜は雨まばらに風にわかなり 深く眠るも酒は消えず)

試問捲簾人,卻道海棠依舊

(簾巻く者に問うと 海棠は依然変わらぬという)

知否,知否?  應是綠肥紅瘦

(知るや否や 葉が茂り花は散るばかりであると)

分かるような分からないような…。
解釈はざっくり「昨夜は雨がまばらに降り突如風まで吹いた。よく眠ったけれど、前夜の残り酒は消えない。部屋の簾を巻き上げに来た侍女に外の様子を尋ねると、海棠の花は別に変わりはないと無頓着に答える彼女。えっ、あなた、分かっているの?花は散って緑の葉が目立っているはずでしょう。」

原作小説の作者 關心則亂曰く、この詞からは、雑事に頭を悩ますことなく悠々自適な生活を送っている古代の裕福な女性の幸福感が感じられる、と。
物語の主人公 明蘭にもそうであって欲しいとの願いを込めてタイトルに採用したという。

タイトルに使われたのは、もちろん全文ではなく、最後の一節である。
その中にある2ツの色、“綠”は樹木の葉、“紅”は花のこと。
「綠肥紅瘦」は、緑の葉が増え、花が散って減っていく頃、すなわち春が去り、夏の訪れを感じる頃である。
李清照が使ったこの「綠肥紅瘦」という表現は中国では知られ、後世の文人たちにも使われているという。

あちらでドラマを観た人々は、「綠肥紅瘦」を必ずしも季節の変化と捉えず、少女から大人になる主人公の成長と考えたり、“綠”や“紅”を葉や花以外の何か別の象徴と捉え、独自の解釈もなされている。
正解は無いようなので、日本の視聴者の皆さまも、勝手に解釈してみて下さいませ。


時代背景

原作小説は、現代女性が架空の時代にタイムスリップする、いわゆる“穿越モノ”

一方ドラマでは、タイムスリップをやめ、時代を北宋(960-1279)に設定し、そこに生きる虚構の人物を描く物語に変えている。

具体的に北宋の中のいつなのか、年号や皇帝名は明示されていない/もしくは変えているけれど、物語の幕開けは…

宋仁宗 趙禎

北宋第四代皇帝・仁宗 趙禎(1010-1063)の晩年と考えて間違いなし。

その根拠の一つに、仁宗が、北宋9名の皇帝の内、最も在位期間が長く、嗣子がないまま崩御していることが挙げられる。
(仁宗は、3人の男児を得るも、全員夭逝している。)

ドラマの老皇帝にも、嗣子なし。
後継者について下手に口にすることはタブー。
臣下たちが、宗室の中から後継者を選ぶよう迫るのが、老皇帝にとっては頭の痛い問題になっている。


宋英宗 趙曙

老皇帝が仁宗なら、次に即位する新帝は自ずと北宋第五代皇帝の英宗 趙曙(1032-1067)に決まる。

英宗は在位たったの4年ほどで病死したせいか、前任の仁宗に比べ影が薄く、これまでほとんど映像作品で描かれなかった皇帝。
しかし『明蘭』では、仁宗よりこの英宗の時代の方に重きが置かれている。

ドラマの中の英宗は、権力欲なく、闘争に巻き込まれることを好まず、禹州で静かに生きることを望むも、切羽詰まった状況下で、新帝に担ぎ上げられてしまう。

明蘭

即位後、仁宗の二代目皇后・慈聖光獻皇后曹氏(1016-1079)が太后となり垂簾聴政を行ったり、英宗の実父を“皇考”と扱うか否かで紛糾した議論、いわゆる“濮議(ぼくぎ)”といった史実も盛り込まれている。





他にもドラマの中では、北宋の生活文化、風習も色々と見ることができる。
その一つが女性の呼称。
清朝の宮廷劇は日本にも多く入ってきているので、“小主”や“娘娘”等はすでに耳慣れている人が多いであろう。

一方、宋代を描くこのドラマで、よく耳にするのは、“大娘子 Dàniángzi”“小娘子 Xiăoniángzi”
家の中でも身分制度が厳格に守られ、妻(正妻)は“大娘子”、それ以外の妾(側女)は皆“小娘子”。
庶子である主人公・明蘭にとっては、父親の正妻が自分の嫡母で、仕来りに従い“大娘子”と呼んでいるし、自身も正妻として嫁いだ後は、“大娘子”と呼ばれるように。
こういう呼び方は、宋の時代の特徴なんですって。


物語

盛家の家長 盛紘の庶女として生まれ、幼い内から理不尽な目に遭ってきた明蘭が、寧遠侯府の次子 顧廷燁に正妻として嫁ぎ、様々な困難にぶつかりながらも、一段一段人生の階段を上っていく姿を描く、宋代に生きる女性の一代記


ドラマのタイトルが、北宋の女流詞人 李清照(1084-1155)の<如夢令·昨夜雨疏風驟>を引用しているため、李清照とその夫・趙明誠(1081-1129)について描いた伝記ドラマと認識されがちだが、北宋の歴史を背景にした、架空の人物による虚構の物語

敢えて李清照&趙明誠との共通点を挙げるなら、女性主人公が知性派、宋代に生きた上流階級の夫婦という点くらいらしい。


本ドラマの主軸は、主人公 盛明蘭の成長と奮闘
家の中にも序列があり、嫡庶の区別がはっきり分けられている封建時代、例え父親が裕福でも、庶女として生まれたばかりに、悲惨な人生のレールが敷かれてしまっている明蘭が、己の正しい心と知性と機転で理不尽な運命を変えていく奮闘記。
(…かと言って、ガツガツ、ギラギラした叩き上げのド根性モノではなく、“洗練された奮闘記”。)


顧廷燁との夫婦愛も大きな軸。
大半の視聴者は、ゆくゆく明蘭と顧廷燁が夫婦になる事など最初から分かっているはず。
しかし、二人が適齢期になる頃、顧廷燁は卑しい身分の女を囲っているばかりか、その女との間に二人も子供を持つ父親になっているのだ。

相手の男性が二児の父なんて、この手のラヴストーリーとしては異例の設定ですよねぇ…?
明蘭側も、齊衡という青年と恋仲になっていく。

そんな明蘭と顧廷燁がどういう経緯で夫婦になるのか、また夫婦になってから如何に愛情と絆で結ばれていくのかは、見所の一つ。


大陸史劇というと、日本で最も観られているのは、宮廷劇であろう。
一方『明蘭』は、広い意味での“家庭劇”であり、北宋を生きる上流階級の人々の群像劇
何か決定的な大イベントを描くのではなく、人々の営みを“綴った”作風は、“北宋版<紅楼夢>”とか、“動く北宋上流階級版<清明上河図>”と呼びたくなる趣き。

もっとも、顧廷燁をはじめとする男性登場人物の多くは、宮仕えする官吏なので、宮廷劇の要素もあり。
新帝と太后の対立に加え、新帝の中に芽生えた忠臣 顧廷燁への疑念が、顧廷燁を追い詰めていく…。
(が、それも実は…。)


人物相関図

明蘭

あまり意味がない気もするけれど、簡単な人物相関図を一応載せておく。


参照:九族五服圖

このように登場人物の多い群像劇だと、人間関係も複雑。
原作小説では、背景や繋がりがもっと具体的に記されているらしいが、ドラマでは端折られたり、変更されている部分もあるようだ。

階級制度が厳しい昔は、どこの国の上流階級も似ており、名家同士で婚姻関係を結び、あっちにもこっちにも親戚がいるから、我々現代人には余計に分かりにくいんですよねぇ。
『明蘭』も、詳細に記された家系図でも見ない限り、分からない部分が多い。


日本人視聴者が特に引っ掛かるのは、顧廷燁が、盛明蘭や齊衡から“二叔”と呼ばれている点では?

Anser

顧廷燁と齊衡は祖先で繋がっている遠縁。
顧廷燁の父・寧遠侯と、齊衡の母方の祖父(齊衡の母・平寧郡主の父)襄陽侯が縁者。
中国語では、母方の叔父なら“叔”“伯”ではなく、“舅”と呼ぶはずだが、五服)を越えた遠縁の場合、上の世代の男性に使うごく一般的な呼称“叔”で良いのだと。

原作小説だと、明蘭も、顧廷燁の超遠縁といえそう。
盛紘の正妻・王氏(明蘭の嫡母)の実家が、齊衡の父・齊國公と縁者。
前述のように、齊衡の母方が、顧廷燁の父・寧遠侯と繋がっているから、「盛家の王氏の実家 齊衡の父・齊國公 その正妻・平寧郡主 平寧郡主の父・襄陽侯 顧廷燁の父・寧遠侯」と繋がる。
ふぅ~…。複雑。

但し、ドラマでは、齊衡が遠縁の顧廷燁のことを“二叔”と呼んでいるため、子供の頃から交流のある盛家の娘たちも皆齊衡を真似て顧廷燁のことを“二叔”と呼ぶようになった、…という単純な解釈にされているようだ。

五服=自分を中心に親族関係の遠近を示すもの。
日本で“三等親”だの“五等親”だのという等親制の起源であろう。

参考までに<九族五服圖>を。
明蘭



キャスト その①:北宋ロイヤルファミリー

物語の時代背景を掴むために、まずは北宋の皇族を簡単にチェック。

明蘭

秦焰(チン・イェン):皇帝

名前こそ伏せられているが、モデルは北宋第四代皇帝の仁宗 趙禎(1010-1063)。
仁宗は有名な皇帝なので、これまでにも多くの俳優が演じてきている。
ここ数年に日本に入ってきた作品だと…

明蘭

『開封府 北宋を包む青い天~開封府傳奇』
姜潮(ジャン・チャオ)『花と将軍 Oh My General~將軍在上』蘆芳生(ルー・ファンション)など。

『明蘭』に登場するのは晩年の仁宗なので、彼らと比べると、ずっと翁(おきな)な雰囲気。
…とは言うものの、実際の仁宗は享年52歳。
演じている秦焰は1954年生まれ、60代半ばだが、実年齢以上に老け込んだ役作りをしている。
“人生50年”の時代なら、50代は現代の80代くらいの感覚だろうから、貫禄が感じられ、丁度いいかも。




明蘭

馮暉(フォン・フイ):新帝 趙宗全


モデルは北宋第五代皇帝の英宗 趙曙(1032-1067)。
英宗の元の名前は“趙宗實”
仁宗に子が無かったため、幼少期に皇宮に迎い入れられ、曹皇后に育てられ、1062年、太子に封じられた際に“趙曙”に改名、翌1063年、仁宗が崩御すると、曹皇后が公表した遺詔により、皇帝に即位。
が、病気がちで、なんと即位たったの4年弱で崩御…。

ドラマ『明蘭』では、“趙宗全”に名前が変えられ、後継者争いに巻き込まれることなく、禹州で静かに暮らすことを望むも、致し方ない状況下で、新帝に担ぎ上げられてしまう。
主人公 顧廷燁は、新帝に目を掛けられ大出世した寵臣なので、もしやこの皇帝の早過ぎる死で物語に一波乱?なんて想像もしたが、『明蘭』の新帝 趙宗全は病弱ではなく、最終回までずっとお元気でおられた。

新帝に扮しているのは、正午陽光作品ほぼ皆勤賞の馮暉

明蘭

『琅琊榜』
では、靖王を補佐する沈追を演じていましたよね~。

『明蘭』では、即位しても、宮中で小麦栽培をする朴訥とした雰囲気のある皇帝。
人は良さそうだが、ちょっとモッタリしていて皇帝の器ではない小者にも思える。

明蘭

肖像画の英宗もモッタリしており、あららぁー、実のところ馮暉は英宗にソックリではないか!

でもね、ドラマを最終回まで観ると、このモッタリした皇帝は、実は冷静に問題に対処する聡明な人物であったと判る。




明蘭

楊青(ヤン・チン):皇后/太后


モデルは、仁宗の初代皇后 郭氏が廃された後、二代目皇后に封じられた慈聖光獻皇后曹氏(1016-1079)。
仁宗の崩御に伴い、英宗が即位すると太后に、その英宗が4年弱で崩御すると、神宗の代で太皇太后に。

ドラマ『明蘭』では、先帝が築いた物を守るため、そして自身の権力維持のために、旧勢力を味方に、新帝の新政の邪魔をし、対立。

演じているベテラン楊青は、近年、年齢を伏せており、中央戲劇學院卒業を卒業したのが1982年であることくらいしか公けにされていないが、恐らく1958年生まれの國家話劇院一級演員。
貫禄があるし、フテブテしさは何賽飛(ホー・サイフェイ)にも通じる。


キャスト その②:主人公

明蘭

趙麗穎(チャオ・リーイン):盛明蘭

盛紘の庶女。
盛紘の妾であった生母 衛恕意は、もう一人の妾 林噙霜の計略にかかり、明蘭がまだ幼い内に死亡。
幸い、子供の頃から聡明な明蘭は祖母から愛され、祖母の庇護のもと多くを学んで成長。
齊公府の御曹司 齊衡との初恋には敗れたものの、庶女でありながら寧遠侯府の二公子 顧廷燁に正妻として迎えられるという大玉の輿に乗る。
(もっとも、この顧家が実家以上に大いに問題のある家。)

母の実体験から、目立たず控えめでいることが生きる術だと学んだ明蘭は、一見出しゃばらない温厚な女性。
だけど、何をされてもただ耐え忍ぶだけの弱者ではなく、実は相当なキレ者。
常に冷静かつ客観的な判断で直面した問題を処理し、万事に抜け目がないから、敵に回すと実はコワイ女。

さらに、嫁ぐ際も、出自のよろしくない自分を唯一の妻にすることを顧廷燁に主張。
顧廷燁もそれを当然のことと受け入れ、二人は対等な立場で、愛し慈しみ合いながら、強い絆で結ばれた夫婦になっていく。

封建的な時代には珍しく、庶女であること、女性であることに屈せず、道理を通し、主義主張をする明蘭。
このキャラ設定は、原作が穿越モノであることが、大いに関係していると推測。

過去で明蘭となる原作小説の主人公は名を“姚依依”といい、どうやら現代での職業は民事裁判書記官らしい。
だから、封建時代の理不尽が許せず、弱者でいることに甘んじない奮闘をするのであろう。

明蘭

おっとりした見た目とシッカリ者の内面というギャップのある役は、趙麗穎が過去に演じた『後宮の涙~陸貞傳奇』の主人公 陸貞にも通じる。
(作品全体のクオリティは、『明蘭』の方が比較の対象にするのも申し訳ないほど上だけれど。)

趙麗穎は容貌が可愛い系清純派なので、下手をすると同性の視聴者を敵に回しかねないが、見た目とは裏腹のちょっぴりスパイシーなキャラを演じるから、好感度高し。

明蘭

前髪を垂らした少女が、やがて嫁ぎ、子を産み、名家を支える立派なマダムに成長していく姿も見所。

1982年生まれ、童顔の趙麗穎は、今でも少女役に痛々しさが無い。
かと言って、年相応の御婦人役も、落ち着いた佇まいのシッカリ者が板に付いている。
もしかして、実物は“可愛い系”というより“キレイ系”なのかもね。




明蘭

馮紹峰(ウィリアム・フォン):顧廷燁

寧遠侯府 顧偃開の次子。字は仲懷
幼少期に死別した生母 白氏は、裕福な塩商の娘で、顧偃開の二人めの正妻。
顧廷燁は文武両道の優秀な子であったが、何の後ろ盾もなく、家の中では常に理不尽な目に遭ってばかり。
成長すると、名家の御曹司でありながら、出自の卑しい朱曼娘を囲い、彼女との間に書蓉書昌という子までもうけ、放蕩の生活。
ところが、父・顧偃開が亡くなると、事態が一転。
継母の小秦氏が本性を現し、侯爵家を追われ、囲っていた朱曼娘もまたゲスっぷりを露見し、全てを失くす。
半ば致し方ない状況で従軍したところ、功を立て、趙宗全が新皇帝に即位すると、忠臣として一気に大出世し、継母に乗っ取られた顧家に返り咲く!

明蘭とは子供時代に出逢い、彼女の義兄 長柏とは親友。
明蘭が苦境に立たされる度に彼女を助け、いつしか明蘭の聡明さに惹かれ、すでに他の男性 賀弘文との縁組みの話が進んでいた彼女を、大胆な策を講じてまで娶ることに成功。

日本で最も観られている馮紹峰主演作は、恐らくドラマ『蘭陵王~兰陵王』であろう。

明蘭

生涯でたった一人の女性だけを一途に愛する蘭陵王にハートをワシ掴みにされた視聴者は大勢いたはず。
蘭陵王は馮紹峰の当たり役。
私自身、いつかもしナマ馮紹峰にお会いする機会があるならば、その時は頼むから蘭陵王のコスプレで来ていただきたい!とずっと願い続けてきた。

…が、『明蘭』で、馮紹峰史上最高の当たり役も、私の恋心も、アップデートいたしました。
馮紹峰史上最高の当たり役は、現時点で紛れもなく『明蘭』のこの顧廷燁!
顧廷燁は名家の御曹司であるが、ひたすら清く正しい白馬の王子様ではなく、持って生まれた性格と複雑な生い立ちから、アウトロー的な匂いを醸す御曹司界の異端。
かと言って、本当にスレきった無法者やチンピラとは違い、品性も知性も包容力もあり。
根は誠実で優しく、しかも大らかでゴーカイ。
ス・テ・キ。私mango、顧廷燁の男気に惚れボレ…。





こんな人が近くにいたら、そりゃあ絶対に好きになっちゃうでしょー。

案の定、映画『西遊記 女人国の戦い』(2018年)とドラマ『明蘭』で馮紹峰と二度共演し、交際の噂が出た趙麗穎は、自身の31回目のお誕生日である2018年10月16日に…

明蘭

結婚
を発表。(→参照
ぎゃーっ…!!!

当時、驚きはしたものの、素直に御両人の末永い幸せを祈った私。
でも『明蘭』で顧廷燁オチした今、趙麗穎に贈りたいのは祝辞よりカミソリ。(←ウソ、ウソ。)
馮紹峰サマに嫁いだ趙麗穎への羨望が止まらない。羨ましーい…!

ちなみに、2019年3月にはベイビーが生まれ、御両人はパパとママになっております。
生まれたベイビーは、ドラマの中の團哥兒と同じように男児。


追記:2021年4月23日

趙麗穎、馮紹峰ご両人が、それぞれの微博で離婚を発表。
これにて、約2年半続いた婚姻関係は解消。


キャスト その③:盛家の二大柱

明蘭

曹翠芬(ツァオ・ツイフェン):盛老太太


盛家の長老。
宮中で教育を受けた勇毅候府徐家のお嬢様でありながら、格下の盛家に嫁ぐも、自身の子を持つことのないまま夫に先立たれ、庶子の盛紘を育てあげ、盛家を繁栄させる。
やはり庶子で肩身の狭い孫の明蘭を可愛がり、彼女が不幸にならぬよう、知恵を授け、立派に教育。
盛家の中に誰一人血縁者がいないのに、誰よりも盛家を考え、家を守るために一生尽力してきた女性。

演じている曹翠芬は、1944年生まれのベテラン女優。
私が曹翠芬を初めて意識的に見たのは、張藝謀(チャン・イーモウ)監督のヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞受賞作『紅夢』(1991年)なので、彼女もまた広い意味で“謀女郎(イーモウ・ガール)”?
封建的な時代に第4夫人として名家に嫁いだ鞏俐(コン・リー)扮する主人公の悲劇を描いた物語である。

明蘭

画像左から、第三夫人=何賽飛(ホー・サイフェイ)、第一夫人=金淑媛(ジン・シューユエン)、そして第二夫人=曹翠芬
嫁ぐ前から、恐怖の未来しか待っていないと予感させるメンツが揃っていますね(苦笑)。

一方、『明蘭』での曹翠芬は、年を重ねたベテランらしいドシッとした構えと懐の広さを感じさせる。
盛老太太は、明蘭を守り、教え導く聡明で公平な女性で、絶対に明蘭を貶めないと分かるから、安心して見ていられる。




明蘭

劉鈞(リウ・ジュン):盛紘

盛家の家長。
庶子である自分を育ててくれた嫡母の盛老太太を敬い、頭が上がらない。
名家から嫁いできた妻の王若弗が苦手で、妾の林噙霜に入れ込むが、そのせいで余計に妻妾の争いが激しくなり、間に入って右往左往。

同性から見たら明らかに性悪な女の本性が見抜けず、コロリと騙される盛紘は、曼娘に尽くす顧廷燁と同類。
女の子は父親に似た男性を結婚相手に選ぶと言われるように、明蘭も顧廷燁に父に近いニオイを感じ取ったのだろうか。
盛紘は素直に騙されるくらいだから、根はいい人である。


盛紘に扮する劉鈞の過去の正午陽光作品と言えば…

明蘭

『琅琊榜(ろうやぼう)<弐> 風雲来る長林軍~琅琊榜之風起長林』
で演じた梁帝 蕭歆
人格者で理想的な君主像。血の繋がらない兄 庭生との兄弟愛も泣かせてくれましたよねぇ~。

『明蘭』の盛紘は、『琅琊榜<弐>』の梁帝とはまた違った意味で人間味がある。
一見ドシッと立派だが、優柔不断で、いつも何となく嫡母や妻の顔色を窺っている盛紘は、封建時代の名家の大黒柱でありながら、根っこがマスオさん気質で、憎めない。

明蘭

威厳やいずこ…。
梁の国の帝位に就いていた時には決して見せることのなかった情けない表情もしばしば(笑)。


キャスト その④:盛紘の妻妾

明蘭

劉琳(リウ・リン):王若弗

盛家の奥方。
太師王祐の嫡三女というお嬢様でありながら、格下の盛紘の妻に。
正妻の地位にいるので形式的には尊重されているが、盛紘が林噙霜の肩ばかりを持つから、イラッ。
最大のライバル林噙霜が消えると、今度はズル賢い実姉 王若與にそそのかされ、姑に毒を盛り→バレるという名家の奥方にあるまじき大胆かつ間抜けな事件を起こし、メンツ丸潰れ。


劉琳は、『明蘭』では夫役の劉鈞と、『琅琊榜<弐> 』からの因縁の仲(?)。

明蘭

萊陽太夫人を演じた『琅琊榜<弐> 』では、梁帝(劉鈞)を逆恨みし、隠れてこっそり“中国版呪いの藁人形”扎小人(針刺し小人)にブスブス針を刺しておりました。

劉鈞に対し恨み節という点で両作品は共通だが、復讐心に囚われひたすら暗い『琅琊榜<弐> 』の萊陽太夫人と違い、『明蘭』の王若弗はとても単純な女性で、根は善良でお人好し。
北宋の名家の正室という設定ではあっても、現代のそこらのオバちゃんと本質的にそう変わらない反応をするから、もう可笑しくて可笑しくて。

劉琳、本当に上手い!
分かり易いコメディではなく、真剣だからこその滑稽さを表現した演技に脱帽。
ここまでオバちゃんを極め、後藤久美子と同じ1974年生まれとは信じ難い。
ゴクミには絶対にできない役だわね。




明蘭

高露(ガオ・ルー):林噙霜


林噙霜は盛紘の妾。
相当なシタタカ者であるが、“守ってあげたい系”を演じ、盛紘をいとも簡単に篭絡。
盛紘の寵愛を独占して権力を掌握するため、明蘭の生母 衛恕意を出産時に死に至らしめ、その後も格上の王若弗と長年に渡る妻妾闘争を繰り広げる。

おくれ毛を垂らし、シナを作ってハラハラと泣く、…といったステレオタイプの“か弱い女”を演じたら、あまりにもワザとらしくて、普通ウソだとバレバレでしょー?!と思うのだが、単純な盛紘には効果あり。
コロリと騙され、「噙霜、君は優しいからすぐ利用されてしまう」などと林噙霜に同情する盛紘を見て、女性視聴者の多くは、画面の中の盛家の女性たちと一緒に呆気にとられることでしょう(笑)。
林噙霜は、本能で「この男、簡単」と分かって、計算して操る、生まれながらのアバズレですわ。


キャスト その⑤:明蘭の異母姉

明蘭

張佳寧(ジャン・ジアニン):盛如蘭


王若弗には、華蘭(長女)、長柏(長男)、そしてこの如蘭(次女)という3人の子あり。
この3人は、正妻が産んだ盛家で最も尊いお坊ちゃま、お嬢様。
母の王若弗は一癖あるけれど、子供は3人とも真っ直ぐで、格下の庶女である異母妹 明蘭とも分け隔てなく付き合っている。
女の子では、長女の華蘭が物語序盤で嫁いでしまうこともあり、主人公の明蘭との絡みがより多いのは、こちらの次女 如蘭の方。


如蘭役の張佳寧は、『海上牧雲記 3つの予言と王朝の謎~九州·海上牧雲記』『如懿伝 紫禁城に散る宿命の王妃~如懿傳』『大唐見聞録 皇国への使者~唐磚』と出演作の日本上陸が重なり、目にする機会が多い。
もっとも、メインで出演しているのは内『大唐見聞録』だけだけれど。
美人過ぎない“程よい感じ”で、清潔感があり、同性を敵に回さない雰囲気が、起用され易さかなぁ~と。
『明蘭』の如蘭も、明るく活発な跳ねっ返り令嬢で、張佳寧らしい役。

ちなみに、同母の兄弟を演じているのは、(↓)こちらの二人の王(ワン)さん。

明蘭

長女・盛華蘭に王鶴潤(ワン・ホールン)、長男・盛長柏に王仁君(ワン・レンジュン)

明蘭

王鶴潤は、もう一本の出演作、聞染に扮する『長安二十四時~長安十二時辰』と視聴が重なったのだが、見た目も役の性格設定も、二作品で全然違う!




明蘭

施詩 (シー・シー):盛墨蘭

墨蘭は、林噙霜が産んだ娘。
“この親にしてこの子あり”の似た者親子!
(髪をビシッと結わず、後れ毛を垂らしているところまで似ている。そうした方が儚げに見え、男を落とし易いという母の教えか?)

この母子の辞書に“分相応”の文字はない。…いや、有ったとしても、何がナンでも書き換える。
当時の庶女には有り得ない“伯爵家に正妻として嫁ぐ”という高望みを叶えるため、母と画策して、ターゲットの梁晗(六郎)をまんまとタラシ込み、“既成事実”を作ってしまったのだ…!
若い娘が異性と外でちょっと会っただけでも「名節を汚す」と罵られる時代に、男と小屋にしけ込むとは、大胆不敵。
文字通り“体を張って”、結果、正妻として伯爵家に嫁ぐという不可能を可能にしたのだから、大したものである。

明蘭とタイプは異なれど、墨蘭もまた“生まれ持った立場に屈せず、欲しい物は自力で得る!”という現代的な感覚をもった女性とも捉えられる。


演じているのは、日本語風の片仮名発音にすると、中国四大美女に挙げられる西施(せいし シーシー Xī Shī)と同じになる施詩(シー・シー Shī Shī)。
現代の西施、…いや施詩も、大変お綺麗で。

明蘭

これまで施詩が演じた役で特に印象に残っているのは、武則天に娘殺害の濡れ衣を着せられる『武則天-The Empress-~武媚娘傳奇』王皇后(?-655)と、『琅琊榜<弐>』の北燕郡主・重華。

細-い体で、儚げな施詩は、『武媚娘傳奇』では武則天に嵌められる悲劇の皇后役が合っていた。
『琅琊榜<弐>』では、適役に思えたあの王皇后のイメージを覆すアグレッシヴな郡主を演じていたから、ギャップで余計に印象に残った。

『明蘭』ではさらに、儚さを男をタラシ込む武器に変え、ある意味『琅琊榜<弐>』の重華以上にアグレッシヴな野心家を演じているのが面白い。
案外、施詩は、見た目のイメージに囚われない色んな役に挑戦しているのですね。


キャスト その⑥:恋のライバル

明蘭

李依曉(リー・イーシャオ):朱曼娘


朱曼娘は、顧廷燁が囲っている女で、彼との間に長女 顧書蓉、長男 顧書昌という二子をもつ。
名家の御曹司である顧廷燁は、出自の悪い朱曼娘を正妻にすることは不可能でも、共に暮らして、社会的弱者である彼女を一生守り抜く心づもり。
曼娘の方も自分の立場をわきまえており、ただただ愛する顧廷燁のお傍でささやかに生きていきたいだけ…。

…なぁーんて控えめなのは表向き。
中身はギラッギラにハングリー。狙うは、寧遠侯府の奥サマの座!
顧廷燁の乳母 は、曼娘の本性を見抜き、度々顧廷燁に注意を促すも、当の顧廷燁は100人中99人が「おかしい…」と不審に思う曼娘の猿芝居に気付かないんですよねぇ~。
顧廷燁と曼娘は、まるで盛家における盛紘と林噙霜のよう。


2018年頃の李依曉は、『独孤伽羅(どっこきゃら)皇后の願い~獨孤天下』『扶揺(フーヤオ)伝説の皇后~扶搖』、そしてこの『明蘭』と悪役続き。
私は、『扶搖』はさっさと捨てたので、思い出すのはやはり『独孤伽羅』である。

明蘭

『独孤伽羅』で李依曉が扮した獨孤曼陀(?-?)に不快にされ、ワナワナ震えた視聴者は多いであろう。
はっきり言って、『独孤伽羅』でキョーレツな印象を残すのは、主人公 獨孤伽羅ではなく獨孤曼陀。

『明蘭』で演じた曼娘とは、奇しくも“曼”さん繋がり。
こうなったら李依曉には曼さんという名の悪役でもう一本演じていただき、“李依曉 毒婦・曼さん三部作”でまとめて欲しい。




明蘭

朱一龍(チュー・イーロン):齊衡


齊公府の御曹司。
高貴な身分で、眉目秀麗、温厚で人当たりも良し。
“都一の美男”と称えられ、若い娘たちの憧れの的。

そんな完璧な貴公子が、明蘭と恋仲に。
齊衡ほどの身分で、庶女の明蘭は不釣り合いだが、それでも齊衡は、明蘭を正妻として迎えると誓う。
しかし、齊衡の背後には、襄陽侯の娘、平寧郡主というハイパーお嬢様な母親が。
コワイですね~(笑)。
自分の事を棚に上げて文句を言う出自の悪い姑は鬱陶しいだけだが、自身が非の打ち所のない高貴なお姑サマは難攻不落の最強の保守派ですヨ。庶女の嫁なんか絶対に受け付けないからー。

齊衡は、遠縁の叔父 顧廷燁から、好きなら進め!と背中を押されるも、グズグズしている間に事態をこじらせ、結局、明蘭は有ろう事か顧廷燁に嫁いでしまったから、叔父さんが憎っき恋敵に。

齊衡は、良く言えば、上品で繊細、悪く言えば、覇気がない男性。
演じているのは、現地で大人気の朱一龍であるが、私は、大らかでゴーカイな顧廷燁に惹かれていた上、ドラマ中盤以降、齊衡はフラレた腹いせで、顧廷燁に嫌がらせをするセコイ男になっていくので、今回もまた朱一龍オチせず。

明蘭

私、朱一龍ブレイクのきっかけとなった『鎮魂~Guardian』を未見なのですよ。
朱一龍の魅力に目覚めるには、やはり『鎮魂』を観ないと駄目なのでしょうかね…?

あっ、でも、『明蘭』でも終盤になると、みみっちぃ齊衡が汚名返上。
気が進まないまま娶った申氏が、実は理知的な出来る女房であると遅ればせながら気付いたことで、ようやく明蘭という呪縛から解き放たれ、申氏と本当の夫婦になっていく齊衡を見て、ホッ…!
それまでのセコさを忘れ、「今度こそ幸せにおなり」と温かな眼差しを送らせていただきました。


キャスト その⑦:クセ者たち

明蘭

王一楠(ワン・イーナン):小秦氏


寧遠侯府 顧偃開の後妻。若い内に亡くなった顧偃開の最初の妻 秦氏の実の妹。
姉が産んだ顧家の長男 顧廷煜の叔母にして継母。顧家の三男 顧廷煒の生母。
幼くして実母 白氏を亡くした顧廷燁にも、ずっと優しく接してきたが、顧偃開が亡くなると態度を豹変。
我が子に爵位を継がせるため、邪魔者・顧廷燁を追い出そうと画策。
それまで小秦氏の本性を見抜けず、油断していた顧廷燁は、まんまと罠に落ちるが、その後ビッグになって舞い戻り、報復を始めたのは、小秦氏にとって想定外。
しかも、今度は明蘭という小賢しい嫁までセット。
こうして、小秦氏VS顧廷燁の、以前より激しい第2ラウンドが火蓋を切る。

小秦氏は丸顔で、一見人の良さそうな奥方。
外ヅラも良く、悪事を働くにも、自分の手は汚さない。

明蘭

現代にも居ますよねぇ?人前では、鬼嫁に虐げられている可哀想な姑を演じているけれど、その実、鬼嫁以上の毒蛇姑って人(笑)。


王一楠がねぇ、また上手いの。
人の良さそうな丸顔から、ふとした瞬間、ギラリと眼光鋭い邪の表情を覗かせて。
姑が板についているけれど、ああ見えて王一楠は、義理の息子 顧廷燁を演じる馮紹峰より3ツ年下の1981年生まれですからねぇー。

明蘭

私生活では、2007年に『琅琊榜』でちょっぴりお馬鹿な太子 蕭景宣を演じた高鑫(ガオ・シン)と結婚し、女児のママです。




明蘭

張棪琰(チャン・イェンイェン):王若與/康夫人

王家の嫡長女、王若弗の実姉。
高貴な出で、嫁ぎ先の康家も立派な家柄だが、夫 康海豐と不仲で立場の危うさを感じているせいか、邪魔な妾や庶子を次々と始末。
さらに、小秦氏に接近し、明蘭イビリのお手伝いをして差し上げたり、実妹 王若弗の嫁ぎ先 盛家にまで口出し。
遂にはトロい王若弗を操り、“盛老太太 銀杏の芽汁入りまんじゅう毒殺計画”を実行!

最初の内は、暇ゆえあちらこちらに首を突っ込むお節介オバさんという感じであったが、徐々にエスカレートし、サイコパスちっくな毒婦と化す点で、朱曼娘にも近い。


康夫人に扮する張棪琰の過去の正午陽光作品と言えば…

明蘭

『琅琊榜』
蒞陽長公主や、続編『琅琊榜<弐>』雲娘子ですよね。

『琅琊榜』では、最終的に、勇気をもって、夫 謝玉の悪行を暴き、事件に決着をつける気高き公主。
『琅琊榜<弐>』の雲娘子は、表向き濟風堂で医療の仕事をし、実は濮陽纓の手下という裏の顔をもつ悪役。

今思えば、『琅琊榜<弐>』の雲娘子はまだ可愛いものであった。
張棪琰、『明蘭』で完全崩壊(笑)。


ドラマのこだわり その①:ライティング

正午陽光のドラマは、コダワリをもって誠実に丁寧に作られ、“良心劇”と称される物が多い。
この『明蘭』もまたコダワリを感じるドラマである。

本作品で私がハッとさせられたのはライティング
ライティングでこんなに映像が映画的に垢抜けるものなのか!と感心。
(もっとも『明蘭』に限らず、最近良いと思う大陸ドラマはどれもライティングが素晴らしい。)

同時期に、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』が放送されていたため、それとの比較で余計にそう感じた。
『麒麟がくる』で晴天の昼間という設定の屋敷の軒先や中庭のシーンを見ると、太陽光が明らかに人工的。
オープンセットではなく、恐らく広いスタジオ内に家のセットを建てて撮影しているのだと察する。
予算も土地も限られた日本のドラマを、大陸ドラマと比べてしまうのは、不公平かも知れないけれど、それにしても、私が子供の頃から今日に至るまで、NHK大河のライティングがずーーーっと変わらず超不自然とは、如何なものか。


明蘭

『明蘭』で注目すべきは、昼間以上に夜のシーンかも知れない。

なんと蠟燭の灯りで撮影をしている。
はっきり言って、『明蘭』の夜の室内シーンは暗い。
ロングショットだと、俳優の顔が区別しにくい程なので、ドラマの撮影としては、かなり大胆な決断であるが、そのお陰で、本当に北宋の時代に迷い込んだかのような気分にさせてくれる。
昔の人々は実際に蝋燭の灯りだけで生活していたわけですから。


ドラマのこだわり その②:音声

明蘭

もう一つのコダワリは、音声
日本の視聴者の皆さま、安心して下さい、『明蘭』の音声は我々日本人が好む俳優本人の声ですから。

例えば、『蘭陵王』で聞き慣れた、頼れる英雄的な馮紹峰の声は、実は声優による吹き替えである。
馮紹峰本人の声は、“逞しい”、“男らしい”と形容するより、“柔らか”、“優しい”という印象の声。
精悍な容貌とマイルドな声というギャップは、馮紹峰の魅力の一つだと感じる。

ちなみに、俳優本人の声採用といっても、演じた俳優が自らアフレコをするパターンと、撮影しながら同時録音するパターンがあるが、『明蘭』は基本的に後者
(もちろん、必要な部分はアフレコも行われている。)

これまで時代劇の場合、アフレコが多かったけれど、近年は同時録音が少しずつ増えてきており、現地で視聴者の反応も良いと見受けるので、今後はこの傾向が進むのではないだろうか。

日本の大袈裟なアニメ声と異なり、中国の吹き替えは、まるで演じている俳優が本当に喋っているかのように自然に当てられていると思うけれど、改めて『明蘭』のような同時録音のドラマを観ると、吹き替えには出せない臨場感が感じられ、やはり良いですね~。


衣装

特に時代劇の場合、日本人視聴者の多くが注目するのは、ライティングや音声以上にお衣装かも知れない。

『明蘭』では、紀偉華(ジー・ウェイホア)楊曉海(ヤン・シャオハイ)がスタイリング、茹美琪(ルー・メイチー)が衣装デザインを担当。
茹美琪は、『琅琊榜』の宗主ファッションが鮮烈だった女性デザイナーである。


ここでは、一つだけ、婚礼衣装に着目。

明蘭

こちら、主人公・盛明蘭&顧廷燁の婚儀のシーン。

中国の婚礼衣装=赤という印象が強い。
現地中国でもそのように思い込んでいる人が多いようだが、新郎新婦が赤い婚礼衣装を身にまとうのは、明代から徐々に出てきた風習らしい。

宋代の婚礼衣装は、基本的に、その前の唐代の延長。
唐代の婚礼衣装は煌びやかで、鮮やかな色彩が好まれ、実際に、新郎が赤新婦が緑をまとったという。
現在使われている、綺麗に着飾った若い男女を意味する“紅男綠女”という四字熟語も、当時の婚礼衣装が由来なのだと。

『明蘭』の婚礼シーンが放送されると、「歴史が再現されている」、「当時、緑は高貴な色で、高貴な女性しか着られなかった」、「新郎が赤、新婦が緑は、高貴なカップルの象徴」とちょっとした話題に。


…ところが、服飾史を専門とする徐州工程學院人文學院の客員教授・黃強氏が、「待った」をかけた。
黃強先生の説明は、それまでまことしやかにに流れていた情報と正反対。
曰く、この時代、緑は高貴な色ではなく、裕福な人々の婚礼衣装にはそぐわない。

当時、服の色、柄、素材は、身分や立場で厳格に制限。
宋代の高官が着るのは緋色など、官吏でも下級の小役人だと
市井の一般人だと、さらに制限され、褐色
主人公・盛明蘭のような裕福な家庭の娘が嫁ぐ時、わざわざ下々の者のカラー緑を身にまとい、自分の地位を低く見せるような事は、まずない!とのこと。


しかし、例外もないわけではない。

明蘭

こちら、宣仁聖烈皇后高氏(1032-1093)の肖像画。

『明蘭』では涓子(ジュエンズ)が演じている新皇帝の皇后・沈從英がこの宣仁聖烈皇后高氏に当たる。

明蘭

『明蘭』の中の沈皇后も、肖像画を意識して制作されたと思われるこのようなお召し物を着用。

この肖像画で宣仁聖烈皇后高氏がお召しになっているのは、“深い青”
浅かろうと深かろうと小役人カラーじゃないの?!と思いますよねー?

黃強先生によると、隋唐以降、皇后は、祭祀の時に青いお召し物をまとったという。
それは、陰陽五行と関係アリ。
陰陽五行説では、方角、季節、色などが陰陽と木火土金水の5元素に分類される。
木に属するのは、季節なら春、方角なら東、色なら青。
東の郊外で、春の迎気(げいき=各季節の気を迎える祭祀)を行う際に身にまとうのは青い服。
つまり、宋代の皇后は、祭祀の祭服として深い青を着たのであり、この場合、その色が尊いか卑しいかは関係ないのだと。


話を戻し、反復すると、『明蘭』の婚礼衣装は、時代考証には則していない。
「ドラマのタイトルにある“綠肥紅瘦”に絡めた演出なのでは」と黃強先生は仰っております。





あと、北宋ファッションを語る上で絶対に外せないアイテムと言えば、(↓)これ!

明蘭

横にビヨーンと長く飛び出し、どう考えても邪魔&非実用的な官帽。
(さり気なく鳥を2羽ほど乗せてみました。)

これは、正確には、“幞頭 Fútóu ぼくとう”と呼ばれるお帽子。
(長い羽根の付いた帽子という意味で、俗に“長翅帽”とも。)

なぜこのような不思議な形になったのか?
幞頭の詳細は、以下にリンク。





テーマ曲

『明蘭』の音楽担当は、孟可(モン・クー)呂亮(リュィ・リャン)
孟可は、『琅琊榜』の音楽を担当したあの音楽家。

オープニングは、その二人による<蘭>という美しい旋律のインストゥルメンタル曲。
エンディングは、男女デュエット曲<知否知否>

<知否知否>は、サビの部分に、李清照の詞<如夢令·昨夜雨疏風驟>が丸々取り込まれている。

この<知否知否>はドラマのテーマ曲であり、主演の二人、趙麗穎馮紹峰のデュエットの他、郁可唯(イーサ・ユー)胡夏(フー・シア)コンビのバージョンもあり。

趙麗穎&馮紹峰版も充分なのだけれど、郁可唯&胡夏版を聴いちゃうと、やはりプロ歌手の方がずっと上手い。
どちらも曲のアレンジが同じなので、歌唱力の違いが分かり易いのです。

それでも、やっぱここには、主演コンビの<知否知否>を!と言いたいところだが、このブログに貼れるYoutubeの動画だとオフィシャルなMVが見当たらない…。
なので、郁可唯&胡夏版の<知否知否>を。
うーン、残念。
郁可唯&胡夏ほど上手くなくても、馮紹峰の柔らかな歌声、好きなのよねぇ…。
まぁ、仕方がないですね。







とても良かった!
先に述べたように、このドラマは名家の栄枯盛衰を描いた“北宋版<紅楼夢>”のような、人々の日々の営みを綴った“動く北宋上流階級版<清明上河図>”のような群像劇で、大イベントが用意されているわけではないのに、物語の世界に不思議と引き込まれる。
基本中の基本である、良い脚本と、実力派俳優たちの名演技を堪能させてくれるドラマなの。

時代こそ北宋で、主要登場人物は上流階級の人々だが、平たく言ってしまうと、ホームドラマでもある。
だから、普通の大陸史劇なら死んで退出させられるであろうキャラクターが、このドラマでは案外死なず、最終話までの登場人物生存率が高め。
ラストも丸く収まるから、ドロドロが苦手な人には観易いかも。

このドラマで私を最も唸らせたのは、それぞれのキャラクターの人物描写。
嫉妬、虚栄心、強欲さ、傲慢さ、恨みツラミ等々、誰しも多かれ少なかれ持っていて、それでいて封印しておきたい人として恥ずべき醜い部分が、多くのキャラクターに投影されているから、「こういう人、実際にいる!」と食い付いてしまうことが度々。(勿論、他人だけではなく、自分自身にも重なるであろう。)
人間は滑稽だからこそ面白いのですよ。

キャラクターにリアルな人間味を与え、魅力的にしているのは、名優たちの力量。
しっかり巧妙な芝居で掛け合う芸達者な俳優たちの競演は、非常に見応えがあり、がっつり舞台劇を観劇したかのような満足感。

善人も悪人もそれぞれに魅力的だが、特に印象に残っている俳優を挙げるなら、王若弗役の劉琳、小秦氏役の王一楠、盛紘役の劉鈞、顧廷燁役の馮紹峰…、かしらぁ~。
みんな、本当に上手い…!
名優が成熟した演技をしているこういうドラマを観ると、やはり俳優は演技力があってナンボのものだと感じる。
プロのお仕事、見せていただきました、って感じ。


清平樂

『明蘭』を観たことで、同じ張開宙監督による東陽正午陽光制作のドラマで、同じく北宋の時代を描き、王凱(ワン・カイ)が仁宗を演じている『清平樂~Serenade of Peaceful Joy』が益々観たくなった。





衛星劇場では、月曜夜9時のこの枠で、2020年7月20日より、『花様衛士 ロイヤルミッション~錦衣之下』を放送。
どうなの、コレ?
衛星劇場が水曜枠で放送するチャラいドラマに近いニオイを感じるのだけれど…。
チャラいドラマばかりを放送するなら、LaLaTVのセレクトと変わらない。
余分に視聴料を取るなら、しっかり観応えのある秀作を放送してくれないと。





追記:2023年3月

『明蘭』とは張開宙監督が北宋を描く正午陽光ドラマという共通点をもつ『孤城閉 仁宗、その愛と大義~清平樂』 を視聴終了。